みなし残業で残業代計算は楽になるのか?気になるメリットと注意点を解説
毎日分単位の残業代計算がめんどくさい!その煩雑さへの対策として導入されるのがみなし残業(固定残業)です。しかし、みなし残業は労働者に歓迎されると限らず時には残業代の計算が却って面倒になる場合さえあります。
この記事では、定額働かせ放題ではないみなし残業の仕組みと正しい残業代計算の方法について紹介します。

・適切なみなし残業は残業代計算を楽にする
・無計画なみなし残業の規定は残業代計算を面倒にする
・みなし残業代導入を検討しているなら弁護士に相談を
みなし残業代とは?
みなし残業とは、労働者が行った実際の労働時間にかかわらず、毎月一定の残業を行ったとみなし、基本給の中に固定残業代として支払う賃金制度のこと。例えば、営業職です。営業職は会社に立ち寄ることなく直接顧客のもとに行くこともあるのではないでしょうか。
会社に立ち寄らない間、企業では労働者の労働時間を把握することは困難。そのようなときに、労働者の残業時間をあらかじめ多めに見込んで、企業側は給与を多く支給します。
このように、企業側が労働者の労働時間を把握することが困難な場合、非常に役立つ制度です。
みなし残業代の仕組み
毎月、固定残業代を支払うみなし残業は、基本給にプラスした賃金制度です。しかし、企業側がただ一方的に賃金を決め、労働者に支払う訳ではありません。まず、労働者に必ず就業規則や雇用契約などの書面で周知する義務があります。
また、給与明細には以下の項目の記載が必須です。
- 夜10時から朝5時までの労働に対する深夜割増賃金
- 労働基準法にある1日8時間、週40時間を超える時間外労働に対する割増賃金
- 休日出勤の労働に対する割増賃金
残業代が固定だからと言って、支給額を全てまとめて記載することは不可ですので注意しましょう。また、設定したみなし時間を超える残業が発生した際は、超過分の残業代を支払わなければなりません。
労働時間にもみなし制度が使われる?
みなし制度は、なにも残業時間にのみ使われるものではありません。働く環境が特殊、一定の職種の労働時間にも適用される制度です。この労働時間のみなし制度は、
- 事業所外労働
- 裁量労働
の2種類に分けられます。以下ではそれぞれを解説していきます。
事業場外労働
一つ目のみなし制度は、事業場外労働です。読んで字のごとく事業場外で働く労働者に適用される制度。具体的には以下のような場合が事業場外労働の対象です。事業場外労働の対象になるのは、以下の条件を満たす必要があります。
- 企業側が労働者の労働時間を算定するのが難しいこと
- 労働者が全部または一部の労働時間について、社外で業務に従事していること
ですので、営業職で1日出張し、会社に戻れない、バスの添乗員で業務後そのまま直帰する労働者などに適用されます。
ただし、上記のような場合でも、
- 会社支給の携帯で上司から随時指示がある場合
- 社外で労働をする際、行先や帰社時間など指示し、労働者が従った場合
- 社外勤務先に労働時間を管理する監督者が含まれている場合
については、事業場外労働に当たりません。
裁量労働制
続いてのみなし労働制度は、裁量労働制です。裁量労働制とは労働時間が労働者の裁量にゆだねる労働時間契約を結ぶことを指します。例えば、企業側と労働者間で結んだ労働時間契約を8時間とします。
通常であれば労働者は8時間きっちり働くのですが、裁量労働制はその通りではありません。労働者が実際、4時間であろうと8時間であろうと、企業からは契約した8時間分の給与が支払われます。
裁量労働制は専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2グループに分割可能です。グループの特徴と該当する職業をまとめていますのでご覧ください。
専門業務型裁量労働制について
- 会社や上司からの具体的な指示がない状態で業務する
- 労働者自身の裁量で時間配分や仕事の進め方を決定するほうが合理的な業務
- デザイナー、公認会計士、弁護士、研究職などの19職が対象
企画業務型裁量労働制について
- 業務上の重要な決定する企業本社で、企画・立案や調査・分析する労働者
- 主体的に事業の運営に関する業務する労働者
- 導入に際し、細かい条件があり
みなし残業、みなし労働時間制を導入するメリット
労働者が柔軟な働き方ができるみなし残業や、みなし労働時間制度。労働者側にメリットがあるように感じがちですが、実は企業側にも以下のメリットがあります。
- 給与計算の手間が省ける
- 人件費の計算が楽
具体的に解説していきますので、参考にしてみてください。
給与計算の手間が省ける
みなし残業やみなし労働時間制を導入すると、経理が行う給与計算の手間が省けるメリットがあります。
例えば、9時から18時勤務+1時間残業とあらかじめ決めていたとします。労働者の仕事が18時55分だった場合、残業時間内での残業になるので計算する必要はありません。
人件費の計算が楽
みなし残業、みなし労働時間制の導入により、給与計算の手間が省けると勤務時間や人件費の計算が楽になります。特に300人以上の労働者を抱える大企業では、一人一人の給与を固定化することで人件費の変動をおさえられるでしょう。
そのため、年度予算の予想値が立てやすくなります。また、労務管理にかかる負担を軽減できるのです。
みなし残業制度で思わぬデメリットが起きる!それはどうして?
みなし残業制度は運用次第で、労働者だけでなく企業側メリットの多い制度。しかし、運用方法を間違えると、企業側にデメリットを与えてしまう可能性があります。
以下では、
- みなし残業代を超えてしまう
- みなし残業代を基本給と分けなかった
- 残業代の上限を無視してはいけない
間違った運用方法で起こる3つのデメリットを解説します。
みなし残業代を超えてしまう
みなし残業制度で起こるデメリットとしては、みなし残業代を超えてしまった場合、追加で残業代を払わなければならない点です。
例えば固定残業代として月30時間分の3万6000円の固定残業代を払うと労働者と契約を交わしていたのにもかかわらず、実際には40時間を超えて残業したケース。
この場合、みなし残業30時間-実際労働者がした残業40時間=10時間分の残業代が未払いになります。未払いを放置してしまうことは違法です。必ず未払いになっている10時間分の残業代を追加で労働者に支払わなければなりません。
みなし残業代を基本給と分けなかった
残業代は、みなし残業であっても基本給と明確に分けなければいけないと厚生労働省が提示しています。ですが、給与明細にみなし残業代と基本給を分けずに記載してしまうと厚生労働省の基準に反してしまいます。
また、基本給が最低賃金を下回っていないか、残業代の未払いが発生していないかの判断基準にもなります。もし、固定残業代を差し引いた額が最低賃金を下回っていた、残業代が払われていなかった場合、労働者と企業間でトラブルが起こりますので注意が必要です。
残業時間の上限を無視してはいけない
残業の時間(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間と労働基準法によって定められています。ですので、みなし残業時間の月45時間以内で設定する必要があります。
仮に、月45時間を超えるみなし残業時間を設定してしまうと労働基準法違反になってしまうでしょう。企業側で45時間以内ギリギリにみなし残業時間を設定していたのに、労働者がそれ以上の残業を行った場合も同様です。
残業時間の上限を無視してはいけません。
みなし残業を賢く導入するポイント
企業側の運用次第ではメリットがあるみなし残業。運用方法を間違えてしまい法律違反をしないよう、賢く導入したいもの。以下では、みなし残業を導入する際のポイントを取り上げています。参考にしてみてください。
残業時間を予測する
みなし残業を導入するなら、あらかじめ残業時間を予測しましょう。無作為に残業時間を設定してしまうと、超過残業が発生した際いらぬ手間がかかります。労働者の平均残業時間を算出するなどして残業時間を予測するとよいでしょう。
労働環境のばらつきを防ぐ
みなし残業を賢く導入する場合、一人一人の残業時間を正確に把握する必要があります。労働者Aは定時に上がれる仕事量、労働者Bは常に30分~2時間の時間外労働を有する仕事量を持っていると正確なデータを取るのが難しくなります。
個人の仕事量に大きな差が出ないよう、労働者には平等に仕事を与えましょう。労働環境のばらつきを防ぐことは、時間管理を行う上で大切なポイントになります。
勤怠管理システムの導入
残業時間を把握しみなし残業時間を予測するなら、勤怠管理システムの導入を検討してみてください。労働者の出退勤の記録を記録するだけでなく、残業時間の修正・削除はできないので正確なみなし残業時間を予測できるでしょう。
また、勤怠管理システムを導入していない会社では、労働者本人からの残業申請がなければ残業代の未払いによるトラブルが発生する可能性もあるかもしれません。
トラブルを未然に防ぐ観点でも勤怠管理システムの導入は便利です。
弁護士と顧問契約
上記のポイントに気を付けていても何らかのミスにより、労働者側から規定の残業・労働時間超過分の割増賃金が支払われないとの訴えが出る可能性があります。双方の意見の食い違いにより関係性を悪化させるのは回避しなければなりません。
万が一、みなし残業に関するトラブルが発生したとき、相談や解決策をアドバイスしてくれるのは法律の専門家です。事前に弁護士と顧問契約するのがおすすめです。
まとめ
みなし残業制度は、定額働かせ放題ではありません。みなし残業代を超える残業代はしっかり払わなければいけないので、基本的には、「余分な残業代と削減できた事務管理費用のどちらが得か?」という視点で考えるべきです。
みなし残業の導入について相談する場合も、実務上の経験が豊富で管理費用の計算もしっかりできる弁護士に依頼することが効果的です。