職場で起きるモラハラ、どのように予防・対処すればいい?
精神的な嫌がらせであるモラハラは、職場環境を悪化させメンタルヘルスの問題や離職といった問題を引き起こします。健全な職場環境を保つためにはモラハラ社員への対処と、モラハラを防止できるマネジメントが必要です。
この記事ではモラハラによって起きる法律トラブルと、弁護士だからこそできるモラハラ対策について紹介します。

・モラハラとは精神的な嫌がらせ
・加害者は指摘しただけではわからない
・働きやすい職場づくりは長期的な利益を生む
モラハラは、なぜ職場で起きるのか?
モラハラとは、「モラル・ハラスメント」の略語ですが、法律用語ではないため特に定義があるわけではありません。また、モラハラは、近年メディアなどで注目されるようになりましたが、それでも俗語として意味が定着しているわけではありません。
職場でモラハラが起きるのは、以下のような理由です。
長年働いていると、会社という組織の中で自信が持てなくなり、自分を粗末にして劣等感に浸ったり日々自分の気持ちを押さえ込んだ生活をしているため、突然に溜め込んでいた怒りの感情が爆発して、優越感に浸りたくてしかたがなくなるときがあります。この優越感に浸りたい願望を満たすために、モラハラを行なってしまうのです。
モラハラとは精神的な嫌がらせ
モラハラとは、「モラル・ハラスメント」の略語であり、言葉や態度によって人を傷つける精神的な嫌がらせのことをいいます。モラハラという言葉は、1998年にフランスの精神科医が提唱して以来、使用されるようになりました。
肉体的な外傷とは異なり、目に見えない心の傷を負わせるものであることから、加害者ならびに被害者が自覚することが困難であり、モラハラと認定されづらいのが現状です。
モラハラは、パワハラとセットで起こる
パワハラとは、厚生労働省の定義によると、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」としています。
モラハラは、学校や家庭、職場など様々な場所で行われるのに対して、パワハラは職場内で行われます。したがって、パワハラは、職場での優越的な関係を利用して、業務上適正な範囲を超え相手の就労環境を害する行為であるため、より限定的なものです。
なお、ここでいう職場での優越的な関係とは、上司と部下の関係だけではありません。この関係は事実上の関係であれば足りるため、同僚間の関係、あるいは部下の上司に対する関係も含まれます。例えば、勤続30年の課長が転職してきたばかりの若い部長に対して嫌がらせを行なうような場合です。
家庭内のモラハラも、パワーバランスの歪みによって起こる
家庭という閉鎖的な環境で起こる夫婦間のモラハラは、より緊密で依存関係の深い深刻な状況に陥りやすいことが特徴です。家庭内のモラハラも、夫婦間のパワーバランスと歪んだ意識によって生じる精神的・肉体的苦痛であるため、被害者が周囲に相談したり警察に被害届を出さない限り発覚しにくいという問題を含んでいます。
職場でのモラハラは、職場という公共の場で行われ他者の目もあるため、加害者側にはある程度の抑止力が働くこともあります。しかし、複数人を含んだ集団的なモラハラを行なうようになれば、もはや他者の目は有害でしかなく、被害者を孤立させ状況は悪化します。
モラハラ被害者の特徴
モラハラの被害者になりやすい人は、以下のような特徴が見られます。
- 仕事に真面目
- 良心的で他者にやさしい
- 人間関係の秩序を守ろうとする
- 周囲に愚痴を言わない
- 自己否定しやすく罪悪感を持ちやすい
- 内向的で人間関係に敏感
モラハラ加害者の特徴
モラハラ加害者になりやすい人は、以下のような特徴が見られます。
- 自分だけが正しいという自己主張が激しい
- 自分が優位にたたないと気がすまない
- 仕事に関する自己評価が高い
- 他人の人格を否定する
- 自分には才能があると思っている
- 他人からの承認欲求が強い
- 人を利用する
- 他者への気配りや思いやりがない
こんなことが起きているかも、モラハラチェック
言葉や態度で相手の人格を攻撃するモラハラ。では、具体的にどのような行動をいうのでしょうか。ここでは、職場で起こるモラハラの具体例を見ていきます。
嫌味、暴言、陰口
職場のみんながいる前で、同僚や部下に本人が傷つくことを知りながら、嫌味をいったり、強気な口調で暴言を吐いたりするような場合です。
また、本人がいる所でわざと聞こえるように陰口を叩く、面と向かって侮辱的な言葉を発する、仕事での能力を否定する、小さな失敗をしつこく責める、なども考えられます。
集団で威圧、仲間はずれ
職場の一人が発端で、集団で被害者に対して危害を加えてくるような場合も、モラハラの典型例といえます。
たとえば、1人だけランチに誘わない、社内のイベントや飲み会に誘わない、職場の人間関係から孤立させる、集団で業務に支障をきたすようなことをする、等があげられます。
差別、プライベートへの中傷
さらには、攻撃の発端をつくるために、学歴、出身地、実家の資産、などプライベートな情報を知りたがり、それを元に差別的な環境を作り出します。
挨拶しても気付かないふりをする、発言をわざと遮る、あからさまに無視をするなどは、頻繁に見られるモラハラ行為です。
仕事の妨害
業務上の必要な連絡をしない、業務上の必要な情報を与えない、ミスをさせるように仕向ける、 その人に見合った仕事を与えずに雑用ばかりを押し付ける、能力に見合わない仕事をわざと押し付ける、などといった業務侵害行為を繰り返します。
モラハラを放置するとどうなるのか?
モラハラを放置すると職場の環境悪化や人材の流出に繋がる危険があるため、注意が必要になります。また、社員のモチベーションや企業イメージの低下など、多方面に渡って悪い影響を及ぼすことになります。
中には、モラハラが原因でうつ病などの精神疾患を招いたり、モラハラを理由に退職する人も出てくるでしょう。
こうしたモラハラを放置することで、会社が責任を問われることにもなりかねません。
被害者が心身の不調をきたす
モラハラを放置すると、被害者が精神的に追い詰められることになり、精神疾患を招くことになります。具体的には、うつ病、ストレス性機能障害、心身症などが考えられます。また、モラハラが長く続くことで、被害者の精神状態が変わってしまい、感覚がなくなったり、妄想、重度のうつ病により自らの命を絶ってしまう例も報告されています。
離職者が増えてしまう
モラハラが原因で、被害者が退職あるいは転職してしまうケースも多く見られます。モラハラにあうと、仕事に行くこと自体が苦痛となり、仕事に対するやる気や情熱が失われてしまいます。そうなると、離職や転職の選択を余儀なくされるでしょう。
また、モラハラを上司に相談してみたにもかかわらず、かえって人間関係が悪化して職場に居づらくなってしまうケースも見られます。
離職者が増えることで会社の業務にも支障を来すことになり、組織にとって非常に大きなリスクとコストを伴うことになります。
人を採用しづらい職場になってしまう
一度でもモラハラが原因で離職者が出てしまうと、その情報が拡散される恐れがあります。そのため、会社側にとっては企業イメージの低下につながり、従業員の採用活動に悪影響を及ぼすことになります。企業にとって採用活動への悪影響は計り知れません。
モラハラへの対処として何ができるか
会社には、従業員が安全・健康に労働できるよう配慮する義務があります。これを安全配慮義務といい、雇用している従業員の人数に関係なく、1人でも雇用があれば発生する義務で労働契約法に定められています。
安全配慮義務には、健康配慮義務と職場環境配慮義務があります。
職場環境配慮義務は、職場内でのいじめを起因として従業員のうつ病や自殺問題が多く報道される昨今、こうした社会問題の対策としていじめ防止を企業に義務化したものです。
ハラスメント対策をはじめとした職場環境の整備を行い、労働者の心身の健康に配慮しなければなりません。
会社には、職場環境配慮義務があるので、モラハラの予防や対策を行なう必要があります。実際にモラハラがおきてしまったときには、具体的に会社はどのような対策をとるのか、職場におけるモラハラにかかわる事後の迅速かつ適切な対応策を講じておくべきでしょう。
モラハラ社員を注意する
モラハラ社員が会社にいると大きなリスクとなります。モラハラ社員は自分自身に問題を抱えているため、被害者が悪いというわけではありません。
モラハラが起きた場合、まずはモラハラ社員本人に、自分のしていることを気付かせることが大切になります。会社側では、被害者の証言や周囲の目撃証言をもとに、モラハラ社員と話し合いの場を持ち、何が起きたのか、説明してもらいましょう。
会社のほうでは、被害報告が出ていること、またモラハラ行為は法律に反する行為であること(侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪など)を告げ、改善されないようであれば、会社側として
どのような対応をするのか、冷静な姿勢で注意することが大切です。
話し合いで解決する
まずは、話し合い、法律トラブルの場合でも示談の解決を目指すようにしましょう。
被害者、周囲の関係職員などの立場も配慮しながら、会社が円満な解決を目指すためには、何よりも充分な話し合いが不可欠です。
会社側は、具体的にどのような話し合いをしたのか、日時詳細を記録しておくことが、後々の紛争を防止するためにも必要でしょう。
再三の注意で改善が見られなければ加害者を解雇する
モラハラ被害の報告から、モラハラ社員と話し合いの場を持ち、注意を促してきたにもかかわらず被害の状況が改善されないのであれば、会社は解雇を検討すべきでしょう。
しかし、解雇はあくまでも最終手段です。まずは戒告やけん責など、より軽い懲戒処分を行った後で懲戒解雇としなければ、違法となる可能性が非常に高いので、気を付けましょう。弁護士に介入してもらい話し合いの場を持つなど、他の解決策が考えられる場合はそれらを優先しましょう。
解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類がありますが、労働者を保護するために様々な制限が設けられています。会社は、不当解雇にならないように充分注意しなければなりません。
職場のモラハラを防止するために何ができるか?
会社として行うべきことは、何よりもモラハラが許されない環境をつくることが重要です。具体的には、以下のような対策をおすすめします。
会社方針の打ち出し
モラハラ行為というものは、加害者にとっても被害者にとってもどこまでがハラスメント行為にあたるのか、その線引きが難しいのが現状です。気付かないうちにモラハラ加害者になっていたり、反対に被害者になっていたりすることも多々あります。
会社では、モラハラとはどのようなことを指すのか、社内で注意喚起をしっかり行い、モラハラが犯罪であることを認識させることが何よりも重要です。
研修の実施
社内では、モラハラ防止研修を実施することを検討しましょう。弁護士や社会保険労務士などの専門家に講師をお願いすることもよいでしょう。
外部から講師を招くことで、社内の職場環境がよりオープンになることもあります。
職場環境の改善
2015年から常時50人の労働者を使用する事業所は、ストレスチェックの実施が義務付けられました。しかしチェックを行なったところで、従業員のメンタルヘルス対策には繋がっていないという声は、よく耳にします。
会社の組織課題の改善を踏まえながら、職場環境の改善に積極的に取り組みましょう。
人事の刷新
モラハラが発覚して、モラハラ社員に再三の注意をしてきたにもかかわらず、職場環境が改善されないこともあります。
このような場合には、会社側で人事を入れ替えて、組織的に改善することも検討しましょう。啓発だけでは、実際に何も変わらない場合があることが多く報告されています・
モラハラ事例に詳しい弁護士の助言を受ける
モラハラは、周囲にわかりにくく、会社が気付けないことが多いのが実情です。モラハラの事実があるのに、会社が適切な措置を講じない場合は、職場環境配慮義務に違反するおそれもあるので、注意が必要です。
モラハラが起きた場合は、 モラハラ事例に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。実務、とくに法律トラブルの現実を知っている弁護士であれば、モラハラ防止の助言を的確にしてくれ、最善の解決策を提案してくれます。
まとめ
モラハラのない職場を作るためには社員の意識改革だけでなく、人事の刷新や業務フローの改善など多くの論点での施策が求められます。
特に法律トラブルへの対策を考えるなら、モラハラの実務に詳しい弁護士から研修やコンサルティングを受けることが良いでしょう。