増えるハラスメントの種類、起きてしまったら会社はどう対処する?
セクハラ、パワハラ、アカハラ…人権意識が高まるほどにさまざまなハラスメントが増える昨今ですが、御社のハラスメント対策は十分ですか?まずは見逃されているハラスメントがないか確認しましょう。

ハラスメントは社会が解決すべき問題。分かってはいても世代や性別、価値観の違いから自覚のないハラスメントを起こしてしまうことや、ストレスでついパワハラに該当する言動が出てしまう場合があります。
ハラスメントは今やセクハラとパワハラだけではありません。「こんなに種類があるのか?」と頭を抱えてしまう時も労働問題に詳しい弁護士が味方になってくれるでしょう。
今回は、伊奈さやか弁護士にハラスメントの種類と対策について解説いただきます。
対処が追いつかない?ハラスメントの種類を紹介
ハラスメントとは、おおざっぱにいうと、嫌がらせを意味しますが、日常会話でも使われるほど浸透してきました。また人々の意識の変化により、新しいハラスメントは、次々に出現しています。
まずはどのようなハラスメントがあるか、ご紹介します。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシャルハラスメント、いわゆるセクハラは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者自身が労働条件で不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
大きく分けて、①対価型セクシャルハラスメント(性的な言動への対応により、その労働者自身が解雇、降格、減給等の不利益を受ける場合)と、②環境型セクシャルハラスメント(性的な言動により労働者の就業環境が害される場合)の二つがあります。
また、「性的な言動」には主に次の5つ等が当てはまります
- 性的な事実関係を尋ねること
- 性的な内容の情報を意図的に流布すること
- 性的な関係を強要すること
- 必要なく身体に触ること
- わいせつな図画を配布すること
参照条文:(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント、いわゆるパワハラは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、これら①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
大きく分けて6類型に分類できるといわれています。
①身体的な攻撃・・・殴打、足蹴り、相手に物を投げつけること等
②精神的な攻撃・・・人格を否定するような言動、業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと等
③人間関係からの切り離し・・・仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりすること、同僚が集団で無視をし職場で孤立させること等
④過大な要求・・・新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること等
⑤過小な要求・・・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること等
⑥個の侵害・・・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること等
参照条文:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
モラルハラスメント(モラハラ)
モラルハラスメントとは、言葉や態度で人格や尊厳を傷つけることをいいます。
職場でのモラハラは、そこに優越的な力関係があれば、パワハラの一種となります。
ですので、多くの場合はパワーハラスメントの一種として職場では捉えられることが多いといえます。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、女性労働者が、妊娠・出産・育児に関し、
妊娠・出産したことや、産前産後休業・育児休業などの制度利用を希望したことや、これらの制度を利用したことなどを理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受けたり、就業環境を害されるたりすることをいいます。
参照条文:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
第9条3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラスメントとは、介護休業に関するハラスメントをいいます。具体的には、働きながら介護を行う人に対する嫌がらせや、介護をしていることに対して会社が不利益な扱いをすることをいいます。
介護休業をとることは、法律上認められている権利です。また、会社はケアハラが起きないように配慮や研修をしなければなりません。
参照条文:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
第25条の2
第2項 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルコールハラスメントとは、一般的に飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権を侵害する行為をいいます。
例えばお酒を飲むように強要したり、一気飲みをさせたり、意図的に酔い潰したりすることがあります。
カスタマーハラスメント(カスハラ)
カスタマーハラスメントとは、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為をいいます。
令和2年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が策定され、事業主は、カスタマーハラスメントに関しても、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うように求められることとなりました。
就活終われハラスメント(オワハラ)
企業が採用したいと思った面接者(主に学生)に対して、他社への就職活動の中止を迫ったり、プレッシャーをかけたりして、自社の内定を受諾させようとする行為をいいます。これは、面接者の職業選択の自由や意思、人格を侵害する行為に該当します。
性的指向や性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)テクノロジーハラスメント(テクハラ)
SOGIハラとは、性的指向や性自認に関するハラスメントをいいます。具体的には、いじめをしたり、無視をしたり、勝手に性的指向を他人に知らせるアウティングをすることが挙げられます。
テクノロジーハラスメント
テクノロジーハラスメントは、パソコンの操作やタブレット端末等の電子機器の操作・取扱いが苦手な人に対して、バカにしたり、いじめたりする行為をいいます。
これも社内で行われる場合には、パワーハラスメントに含まれる可能性が高いと思われます。
中でも種類と案件が多いのはパワーハラスメント
上記であげたように、多くのハラスメントがありますが、会社において種類及び案件が多いハラスメントは、パワーハラスメントです。
厚生労働省が令和2年に行った職場のハラスメントに関する実態調査では、過去 3 年間にパワハラ相談があったと回答した企業の割合が48.2%、次いでセクハラは29.8%、カスハラが19.5%でした。調査した会社の2社に1社でパワハラの相談があったことになります。
参考サイト:厚生労働省
社員がハラスメントを働いた場合、どんな責任を負う?
社員がハラスメントを働いた場合、ハラスメントの内容や態様によっては、ハラスメントを受けた社員に対して慰謝料等の損害賠償責任を負うことがあります。
また、ハラスメント行為が暴力の場合、暴行罪や傷害罪に該当することもあります。精神的なハラスメント行為であっても、それにより被害者が精神障害を発症した場合にも、傷害罪に該当する可能性があります。
企業に求められるハラスメント対策とは?
前述したようにパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメント等については、法律上、企業がハラスメント対策をとるように求められています。
そして、令和4年4月1日より、労働施策総合推進法(いわゆるハラスメント防止法)のハラスメント防止義務が中小企業にも適用されるようになりました。
ですので、全ての企業がハラスメント対策が必要といえます。
会社の方針の明確化と、その周知・啓発
ハラスメントの対策として、最も大切なことは、会社としてハラスメントは許さないという強い意思を示すことです。
つまり、会社や社長の方針を、明確にすることが大切です。
そして、この方針を、社内に周知させることが大切です。パンフレットを作成したり、社内に掲示する方法もありますし、社員研修をすることで周知徹底することもできます。
次にハラスメントを禁止する内容や、ハラスメントを起こした社員の懲戒内容等を定めた就業規則を策定することが必要です。
ハラスメントの相談には誠実に対応する
社内にハラスメント相談の窓口を設置するとともに、その窓口があることを社員に周知することがまずは必要です。
そして、ハラスメント窓口を適切に運用すること、そのために窓口担当者に研修を受けさせることも大切です。
しかし、何よりも大切なことは、実際にハラスメント相談が窓口に持ち込まれた場合に誠実に対応することです。
具体的には、窓口担当が真摯に聞き取ること、ハラスメントを申告した従業員のプライバシーを保護したり、申告した従業員を不利益に扱うことがないようにすることです。。ハラスメントを行った社員から事情を聴取することも必要ですが、匿名での職場アンケートを行うことも効果的です。
ハラスメントに対して事後的に迅速・適切に対応する
ハラスメント行為があったと認定できた場合は、まずは被害を受けた従業員を保護するような配置転換やハラスメントを行った者からの謝罪、メンタルヘルスへの相談対応などを行います。
次に、ハラスメントを行った者に対しては、就業規則等に則り、懲戒その他処分をします。
そして、ハラスメントが再発しないように、社内に周知し、改善策を講じる必要があります。ただ、この際に、被害者のプライバシーに配慮した周知をすることも大切です。
ハラスメントで訴訟を提起された時の対処法を紹介
ハラスメントを受けたとして訴訟を起こされたときは、すぐに弁護士に相談することが大切です。
また、社内調査済みであれば再度その資料を見直すことも必要でしょう。
事前の通知などがまったくないままハラスメントで訴訟になることは想定しにくいですが、万が一寝耳に水だったような場合は、訴状記載の内容とおりのハラスメントがあったのか、すぐに社内調査を開始する必要があります。
過剰な訴えには毅然とした対応を
ハラスメントを受けたとして訴えられた場合、社内調査をしてもハラスメントに該当する行為がない場合には、きっぱりとない旨対応することも必要です。
ただ、対応する前段階としては、社内での十分かつ適切な調査があることが前提です。
そのため、調査体制を常日頃から整えておくことが必須といえるでしょう。
ハラスメント対策の徹底をしたいなら弁護士へ相談を
令和4年4月1日より、中小企業にもハラスメント対策が義務化されたことからハラスメント対策はもはや会社の必須内容となりました。
さらに、ハラスメントがあったとして訴えられた場合、同時に、未払い残業代の請求や、労災の請求、不当解雇の請求なども付け加えられることもあります。その場合企業が負担する金銭債務が数百万円にのぼることは珍しくありません。
また、ハラスメントがあり、それを見逃すような会社では、社員の士気も上がらず、生産性もありませんし、離職率も高まります。
以上から、ハラスメント対策を徹底したいならば弁護士に相談することがいいといえるでしょう。
伊奈弁護士からのメッセージ
ハラスメントが起きた場合、会社が受けるリスクは多岐にのぼります。
一度起きてしまった場合に対応することも、社内のリソースを割かれ、また、金銭的負担が大きくなります。
そのようになる前に、ハラスメント対策をしっかりとることは、いまや企業の義務といえるでしょう。
少しでも危ないと思われるところがあるならば、是非この機会に対応を整備してください。