法定相続人の順位が分からなくなったら「原則」を思い出そう
亡くなった人に愛人がいて、子がいて、養子がいて、その下に孫が何人もいるらしい…誰が相続人になるのか迷ってしまう気持ちはわかります。そんなときは弁護士に相談しましょう。

遺産相続は相続人を確定させることから始まります。一体誰が相続人で、それぞれいくらもらえるのか?家系図が複雑であるほど頭を悩ませてしまうものです。この記事では民法において法定相続人の順位がどのように決められているのか?主なケースの紹介や相続財産の分け方について紹介します。
・配偶者と子は法定相続人になる。
・相続法では養子・婚外子も子として扱われる。
・代襲相続の問題は弁護士に相談することがおすすめ。
相続は順位が高いほど相続できる割合が高い!相続の順位について
亡くなった方から財産を承継する相続は、法律によって誰がその対象となるか決まっています。具体的には民法第886条から第895条まで。同法によって定められた相続人のことを法定相続人または推定相続人と呼びます。
推定相続人と呼ばれる理由は死亡や相続放棄、遺産分割協議での合意に応じて実際には相続しない場合があるからです。
相続の順位①民法で決まっている相続の順位
家系図が複雑になるほど計算が難しくなる法定相続分ですが、原理はこの5つだけです
- 配偶者は法定相続人である
- 子は法定相続人である
- 直系尊属(親、祖父母などのうち被相続人に最も近い尊属)は子がいない時のみ法定相続人となる
- 子と直系尊属がいない場合のみ兄弟姉妹が法定相続人となる
- 配偶者がいない場合は、子のみ、直系尊属のみ、兄弟姉妹のみのいずれかが相続する
相続の順位は、いかに複雑な事例であってもこの原則に外れることはありません。例えば養子が相続人になるのは養子が子として扱われるからで、孫が相続するケースも子の相続権を受け継ぐからです。
相続には順位があるものの、相続における順位の低い家族はそもそも法定相続人にならないと覚えておきましょう。
相続の順位②相続の順位によって変わる法定相続分
法定相続人の順位は、相続人と認められるか否かという点だけでなく相続分の大きさにも関わります。こちらも以下の原則に基づいて判断されます。
- 配偶者と子はそれぞれ半分の相続分を得る
- 配偶者と直系尊属はそれぞれ2:1の割合で相続分を得る
- 配偶者と兄弟姉妹はそれぞれ4:1の割合で相続分を得る
- 相続の順位が同じ相続人は、均等に相続分を得る
そしてこの比率は、相続順位にあるもの全てを表しています。
例えば配偶者と子供3人が法定相続人である場合、配偶者が半分で子が残りの半分を3人で分け合います。
つまり配偶者は2分の1、子はそれぞれ6分の1が法定相続分というわけです。
一体誰がいくら相続できる?相続人に誰がなるかの具体的パターン
法定相続分は誰にいくら与えられるのか?ケースによってはとても難しい問題になります。しかし、たとえ弁護士に相談すべき難問であっても先に説明した原理原則は守られます。この章で説明するケースに関してもそれを理解できれば恐るるに足りません。
ただし遺産分割協議は原則自由で法定相続分によらない合意あっても認められます。相続人同士が円満であれば遺産分割協議の参考に、相続争いがある場合は仲裁や裁判の備えとして覚えておきましょう。
相続人の具体例①相続開始前に法定相続人となるはずの人間が死亡した
法定相続人が被相続人よりも前に死亡した場合、その人は相続人ではなくなります。例えば配偶者と子ども3人という親子が相続した場合は子の相続分がそれぞれ6分の1になりますが、子が1人亡くなっている場合、その子に子(被相続人の孫)がいなければ、残りの子はそれぞれ4分の1を相続することとなります。
相続人の具体例②死亡した法定相続人に子がいる
法定相続人が亡くなった場合、法定相続分はありません。しかし、法定相続人に子がいる場合はその限りではありません。被相続人の子が亡くなっても、その子つまり被相続人の孫がいれば子に代わって法定相続人となります。これを代襲相続と言います。
子の代襲相続には制限がなく、一方で兄弟姉妹の代襲相続は1代限りという制限があります。
例えば、被相続人が110歳の大往生であったとします。しかし被相続人の子は70歳で亡くなっていて、50歳の孫はいます。この場合は孫が代襲相続します。もし、この孫が亡くなっていて30歳のひ孫がいた場合はひ孫が法定相続人になります。
さらに不幸にも30歳のひ孫が亡くなってしまったがしまったが5歳の玄孫がいる場合は、その玄孫が「子からの代襲相続」によって法定相続人となります。
このようにどれだけ相続人の範囲が広がっていったとしても、法定相続人の根拠は原則通りというわけです。
相続人の具体例③養子と姪がいる
養子は相続において実子と同じく扱われます。つまり被相続人の子としての相続順位と法定相続分を持ちます。
例えば被相続人が40歳で亡くなり、10歳の養子が1人いる。被相続人は両親を数年前に亡くした。また、被相続人には兄がいて姪は13歳になる。
この事例において養子は子として扱われます。したがって兄弟姉妹は法定相続人ではありません。したがって兄弟姉妹の代襲相続が1代だけだとしても姪は法定相続人にならないのです。
もちろん何かの事情で被相続人が姪を2人目の養子にしていた場合は法定相続人になります。つまり養子を増やすほど法定相続人の範囲が増えていくのです。
ちなみに養子は子と同じく代襲相続しますがこれは被相続人存命時に生まれた卑属に限ります。
婿・嫁の法定相続分は?
世間では家庭に入るとか婿養子になると言った表現がされますが、実際に養子縁組しているわけではないのでそれぞれ元の家庭における実子としての地位と配偶者としての地位を持ちます。
つまり義父・義母に対する法定相続人となることはありません。
相続人の具体例④離婚した妻や夫がいる
離婚した妻や夫がいて、しかし再婚していない場合は相続がどうなるのか気になるかもしれません。しかし配偶者と規定されている以上、元配偶者は法定相続人ではありません。
ただし被相続人は、遺言等で元妻や元夫に遺言で財産を与える(遺贈する)ことは可能です。
相続人の具体例⑤離婚した妻や夫との間に子がいる
元配偶者は法定相続人ではありません。では、元配偶者との間に設けた子は?そもそも結婚していない異性との間の子は?気になるところかもしれません。しかし、元配偶者だろうと婚外子であろうと実子であることには変わりありません。
かつては非嫡出子が相続分で不利だった時代もありましたが、現在は非嫡出子であろうとも親子であれば現配偶者の子と同じ相続分となります。
相続人の具体例⑥行方不明の法定相続人がいる
行方不明であろうと法定相続人であることに変わりありません。探しましょう。
ただしどうしても見つからない場合は不在者財産管理人という行方不明者に代わって財産を管理し相続に参加する人の選任を申し立てることで遺産分割できます。申し立て先は行方不明者の住所を管轄する家庭裁判所です。
なお、不在者財産管理人の申し立てで解決する問題のために失踪宣告の申し立てはできません。例えば失踪宣告を申し立てるのは相続人ではなく被相続人が行方不明になった場合です。
ちなみに行方不明の法定相続人を無視し遺産分割協議を行った後、その人が見つかれば遺産分割協議はやり直しとなります。遺産分割協議は全員で行わなければならないためです。
相続人の具体例⑦内縁関係の人がいる
法定相続人が誰もいない場合相続財産は国庫に帰属します。たとえ内縁関係と言えるほど親密でも、大親友と呼べる関係であっても同様です。身寄りがない人の財産は国のものとなるわけです。
ただ、裁判所が特別縁故者として認めた場合に限り内縁関係者などが国庫から財産分与を受ける形で承継します。
つまり特別縁故者が財産をもらえたとしてもそれは相続ではありません。
ちなみに法定相続人が誰もいない場合には、全ての法定相続人が死別した場合や全ての法定相続人が相続放棄した場合も含まれます。
相続人の具体例⑧相続欠格になった法定相続人に子がいる
相続人の廃除をされた法定相続人も、相続欠格となった法定相続人も、代襲相続は平等に生じます。
例えば被相続人の家族は弟と甥のみ。この状況で被相続人が弟に殺されたとします。この場合弟は相続欠格の条件に該当しますが代襲相続が1代に限り起きるため姪は法定相続人となります。
相続人の具体例⑨子に先立たれ孫も亡くしてしまった
法定相続人を決める上での直系尊属とは存続の中で最も親等が近い人を指します。つまり被相続人の両親が亡くなっていれば被相続人の祖父母、さらに曹祖父母が相続することもごくごく稀にあるかもしれません。
ただし直系尊属が相続人となるのは子がいない場合、または相続人でない場合です。
相続人の具体例⑩被相続人の妻が身籠もっている
胎児は法定相続人です。
例えば被相続人に1人の子がいて、被相続人の妻が2人目の子を妊娠している状態で被相続人が亡くなったとします。この場合は配偶者の法定相続分は2分の1、生まれている子と胎児はそれぞれ4分の1ずつとなります。ただし、胎児が生まれる前に亡くなった場合には相続人とはなりません。
相続人や相続の順位を考えるときに気をつけなければならない注意点
相続人の特定が面倒だ、法定相続分を減らしたくない…中にはそのようなことを考える方がいるかもしれません。しかし法定相続人は民法で定められた決まりで、相続放棄がない限り法定相続人全ての合意なくして遺産分割協議は完了しません。
相続の順位を考えるときの気をつけるべき点を紹介します。
相続人や相続の順位の注意点①必ず戸籍を確認する
相続人の抜け漏れがないよう必ず戸籍を確認しましょう。配偶者と子のみの相続と思われる場合でも思わぬ代襲相続が起きている可能性はあるし、隠し子や養子の存在が明らかになることも考えられます。
戸籍の取り寄せは被相続人が生まれてから亡くなるまで空白期間なく集めることが必須となります。手続きが面倒と感じるときは弁護士、あるいは司法書士や行政書士に代行依頼すると確実で、何より楽です。
相続人や相続の順位の注意点②法定相続人(推定相続人)の廃除について
相続欠格はその事実が認められれば相続人でなかったことになります。しかし、法定相続人(推定相続人)の廃除は被相続人が直接あるいは遺言によって申し立てなければ廃除することができません。
相続人や相続の順位の注意点③遺留分侵害額請求を忘れずに
特定の相続人のみが遺産を相続した場合や他人への遺贈があった場合などにも、遺留分という最低限確保できる財産の割合を決めています。この遺留分を侵害するほどの遺贈等が行われた場合、遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)を行使することが可能です。相続人間の遺留分の割合は法定相続分に準じます。
まとめ
法定相続人の順位は配偶者と子が第1位で、直系尊属と兄弟姉妹が論点となるのは子がいない時のみです。そして代襲相続や婚外子の相続なども、先の原則から外れないので落ち着いて家系図を見ていきましょう。
法定相続人の確定が難しいときや、相続人同士の禍根があり相続争いが懸念される場合はぜひ弁護士に相談しましょう。