裁量労働制でも残業代は請求できる!計算方法と請求方法を元弁護士が解説

会社で「裁量労働制」が採用されている場合、どれだけ長時間労働をしても時間外労働の計算をしてもらえず、残業代を支払ってもらえないケースが多いです。会社からは「裁量労働制の場合には残業代が発生しない」と説明されますが、実際には裁量労働制でも残業代を請求できるケースがあります。今回は、裁量労働制でも残業代を請求できるケースと残業代の計算方法・請求方法について、解説します。

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目次

裁量労働制についてのお悩みが増加


◾相談者さま

前職に比べてリモートワークやフレックスタイムを利用して柔軟に仕事ができるようになった。

一方で1日の労働時間が10時間を超える日も出てきたし、仕事量は増えてる気がする。

裁量労働制とは言うものの、残業代はもらえないのか?

 

名前/年齢/性別

田中喜久(仮名)/28歳/男性

職種/月の残業時間

マーケティングコンサルタント/37時間

相談背景

夫婦共働きであったが、自分自身は仕事が忙しく、中々家事や育児に参加できず妻に負担を掛けてしまっていた。

しかし、来年にはまた子供が生まれるので、妻の負担を軽くできるように、自分も家事・育児に参加していきたい。そのために今までと違った柔軟な働き方ができる会社への転職をした。早帰りやリモートワークなどができるようになり、家事や育児に参加でき家族の時間が取れるようになった。

一方でプロジェクトが詰まっているときやトラブルが起きたときは、1日10時間以上働く日や泊まり込みの日も増えた。しかし裁量労働制で自分で働らく時間を管理しているため、残業代を請求したことはない。前職は残業代をあてにしていた部分もあったので、裁量労働制でも残業代をもらえたら、家計の面からも助かる。

相談内容
 

裁量労働制って残業代を請求できるの?

残業代を請求できる条件は?

残業代に上限はあるの?

残業代を請求するのに必要な準備は?


◾担当弁護士

本来裁量労働制ではないのに裁量労働制と言われて残業代を支払ってもらえていない方がとても多いです。まずは裁量労働制の適用職種かどうか、確認しましょう。

そして裁量労働制でも残業代を請求できるケースは多くあります。今回は裁量労働制とでも残業代を請求できる方法と手順を解説していきます。

 

本記事の執筆者

福谷 陽子 

元弁護士

京都大学法学部卒業後、10年間の弁護士実務を経て、ライターに転身。

現在は法律記事を中心に多数のメディアや法律事務所などの依頼を受けて執筆活動を行う。

そもそも裁量労働制とは

 

裁量労働制とは「実際働いた時間」とは無関係に、事前に契約によって定めておいた労働時間(みなし労働時間)働いたものと「みなす」制度です。

裁量労働制が採用されている場合、実際に何時間働こうとも「みなし労働時間」の分働いたことを前提に給料が支払われます。

たとえば当初の契約でみなし労働時間を8時間にしておけば、4時間働いた日があっても10時間働いた日があっても、8時間の労働の分の給料が支払われます。

労働基準法では、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて働いたら時間外労働手当(残業代)を支払うものと規定していますが、裁量労働制の場合、「みなし労働時間」働いたものと擬制されるので、実際には8時間を超えて働いたとしても、時間外手当を請求できません。

このことが理由で、雇用者側は「裁量労働制の場合には残業代が支払われない」と説明するのです。

裁量労働制を適用できる職種

ただし裁量労働制を適用できる業種は非常に限定されており、以下の2種類のみです。

(1) 専門業務型

研究開発、プロデューサー、ディレクター、イラストレーター、コピーライター、ソフトウェア開発、情報分析、弁護士、公認会計士などの19の専門業種には裁量労働制を適用できます。

専門業務型の裁量労働制を適用するためには、労働組合や労働者の代表者との間で労使協定を締結して労基署へ届け出た上で、従業員の健康管理にも配慮するなどの対応が必要です。

(2) 企画業務型

本社で会社経営の本質に関わるような重要な企画立案や遂行に関わる業務です。

企画業務型の裁量労働制を採用するには、労働委員会を設置して委員全員の同意を得た上で、労働組合などとの間で労使協定を締結し、労基署へと提出する必要があります。

裁量労働制で残業代が発生するケースとは

会社から「裁量労働制だから残業代を支払えない」と言われている場合、法律的には残業代を請求できるケースがあります。以下で、そのパターンをご紹介します。

(1) 裁量労働制を適用できない業種

1つ目のパターンは、そもそも裁量労働制を適用できない業種において、雇用者側が勝手に「裁量労働制を導入している」と言っている場合です。

裁量労働制は、上記の通り特殊な専門職か企画業務に就いている人にしか適用されません。

ところが企業は上記以外の業種でも、おしなべて「うちでは裁量労働制を採用しているから」と説明して一切の残業代を支払わない場合があります。労働者の方も、フレックスタイム制などが適用されていると、ある程度自分の自由に労働時間を決められるので「これが裁量労働制か」と思って納得してしまっているケースもあります。

しかし実際には、フレックス制などと裁量労働制は違います。そもそも上記の職種以外で裁量労働制を適用することは不可能なので、あてはまっていない場合には残業代を請求すべきです。

(2) 労使協定などの要件を満たしていない

裁量労働制を導入するには、それぞれ適用するための手続的な要件が必要です。

たとえば専門業種型の場合には、労使協定の締結と労基署への提出などが必要ですし、企画業務型の方はさらに厳しく、労働委員会における決議まで必要です。

これらの手続的な要件を満たしていない場合には、たとえ適用可能な業種であっても裁量労働制を適用できません

会社に「裁量労働制を採用している」と言われたら、労使協定などが締結されているか調べてみましょう。

(3) 深夜労働、休日労働のケース

裁量労働制の場合でも、深夜労働や休日労働をすれば割増賃金が適用されます。

22時から翌日の午前5時までの深夜労働の場合には、1.25倍の割増賃金を請求できますし、週に1度の休日労働をした場合には1.35倍の割増賃金を請求することが可能です。

(4) そもそも「みなし労働時間」が8時間を超えている

裁量労働制のケースであっても、労働者と雇用者の取り決めにおける「みなし労働時間」がそもそも「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えている場合には、超過分の残業代を請求できます。

 

裁量労働制の残業代の計算方法

 
残業代の計算方法は、以下の通りです。
 

(1) 計算式と計算方法

基本的な計算式を示します。

  • 1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間×割増賃金率

1時間あたりの基礎賃金は、毎月の定められた「月給額」を1か月あたりの所定労働時間で割り算して求めます。

1か月あたりの所定労働時間数=(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間数÷12

こうして得られた数字に、残業を行った時間をかけ算して、「割増賃金率」をかけると、未払の残業代を計算できます。

(2) 割増賃金率

割増賃金率とは、労働基準法が定める時間外労働に適用される賃金増額の割合です。

労働基準法は、労働者が働く時間について基本的に「1日8時間、週40時間」と定めています。それを超える場合には労働者の身体に負担がかかるので、通常の基本給を1.25倍にした賃金を請求できます。

同じように、22時から翌日5時までの深夜に労働した場合にも労働者に対する負担が大きく、1.25倍の割増賃金が適用されます。

さらに労働者には週に1度の「法定休日」が保証されていますが、休日に働くと休息を取ることができなくなって労働者に負担がかかるので、1.35倍の割増賃金率が適用されます。

時間外労働と深夜労働が重なると1.5倍、休日労働と深夜労働が重なると1.6倍の割増賃金を加算します。

(3) 残業代計算の具体例

例)1時間あたりの基礎賃金が5,000円、時間外労働時間が20時間、うち深夜労働が10時間の労働者のケース

残業種類 基礎賃金5,000円
時間外労働(20時間) 125,000円(5,000円×20時間×1.25)
深夜労働(10時間) 75,000円(5,000円×10時間×1.5)
残業代合計 200,000円 

残業代に上限はある?

 

裁量労働制で残業代を請求するとき「上限の金額」があるのでしょうか?

企業が労働者に残業をさせる場合には、「36協定」という労使協定を締結する必要があります。協定では、どのくらいの時間残業をさせる予定があるのか明らかにする必要がありますが、その際1か月に45時間、1年に360時間などの限度時間が設定されています(ただし一般の労働者の場合)。

つまり36協定を締結しても、基準を超える残業をさせると基本的に違法となります。

このような上限があるので、一般的に「残業代は1か月に45時間分しか請求できない」と思われていることがありますが、これは誤解です。

上記の規制は「1か月の残業時間」の上限を雇用者側に対して求めるものであり、労働者の「1か月の残業代請求権」を制限するものではないからです。

企業から違法に長時間働かされたとしても、その責任は企業側にあり、労働者側のものではありません。そこで残業第請求権には上限がなく、1か月45時間を超えて働いたとしても、全額の残業代を請求できます。

残業代請求で必要な証拠

残業代請求をするときには、以下のような証拠を用意しましょう。

  • タイムカード
  • 出勤簿
  • 営業日報、業務日誌
  • 勤務時間表
  • パソコンのログイン、ログオフ記録
  • 交通ICカードの記録
  • タクシーの領収証
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 給与明細書
  • 源泉徴収票

特に残業時間を証明するための資料が重要です。

残業代の請求方法

裁量残業制を理由に残業代が支給されていない方が残業代を請求するには、以下の手順で進めましょう。

(1) 内容証明郵便で請求

まずは集めた資料をもとに残業代を計算します。計算できたら、「内容証明郵便」を使って勤務先に残業代の請求書を送りましょう。内容証明郵便を利用するのは、そのことによって確実に雇用者側に残業代請求をした証拠を残すためです。

また内容証明郵便が送られてくると企業側もプレッシャーを感じて真面目に話合いに対応することが多いです。

請求書を送ったら、企業側との間で残業代支払いの可否や金額、支払い方法などについて話し合います。合意ができたら「残業代支払いについての合意書」を作成し、その内容に従って未払残業代を払ってもらいます。

(2) 労基署に通報する

直接請求をしても残業代を払ってもらえない場合には、地域の労働基準監督署に通報するのも1つの方法です。

労働基準監督署は域内の企業がきちんと労働基準法を守って運営しているかどうかを監督する機関ですから、企業が法律を守っていないなら指導勧告をしてくれる可能性が高いです。

これによって、企業側が残業代支払いに応じるケースも多々あります。

(3) 労働審判を利用する

労基署へ通報しても企業側の態度が変わらない場合などには、裁判所の労働審判を利用して残業代請求を行いましょう。

労働審判では当初3回調停を行って、解決できない場合には裁判所が「審判」によって結論を出してくれます。残業代支払いの必要があるケースでは、裁判所が企業側に対して未払い残業代の支払い命令を下します。

(4) 労働訴訟を起こす

労働審判に対してどちらかが異議を出し、審判の効力が失われた場合には、労働訴訟によって解決する必要があります。

その際、素人が1人で裁判を進めると非常に不利になるので、労働問題に強い弁護士に依頼しましょう。

まとめ

今回は裁量労働制でも残業代請求できるパターンと方法を解説しました。

会社から「裁量労働制だから残業代を出せない」と言われている方は、一度弁護士に相談して、本当に残業代が発生しないのか、確認することをお勧めします。

 
この記事の作成者

カケコム編集部