残業代請求された場合の正しい対処方法

会社を経営しているとどうしても気になってしまうのが残業の発生。当然残業代を支払わなければいけないことは認識しているが、誰も請求してこないから放置しているという方も多いのでは?

しかし、そのまま放置するとあとで残業代請求をされたときに大変な事態に陥ってしまいます。今回は具体的な事例を含め、残業代請求をされたときの正しい対処法を紹介していきます。

会社の事故・トラブル(73)労働(72)
目次

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残業代についての悩み|働く意識の乖離に伴って増加


◾相談者さま

ここ2年で入社した社員が退職して未払いの残業代を請求された。

たしかに発生はしていたが、それでも月20時間以内に抑えられていたし、昔よりはるかに労働環境は改善された。

サービス残業として認められるケースはないのだろうか?

名前/年齢/性別

田中亮二(仮名)/48歳/男性

相談背景

工業製品部品の製造会社を経営する田中さん。従業員は30名程度の町工場であり、社内の人間関係のつながりが強い。しかしここ2年で入社した3名が同時に退職。それに合わせて未払いの残業代の請求もされた。

今まで月の残業時間は20時間程度に抑えていたため、昔からいる社員は以前より労働環境がマシになったといいサービス残業をしていた。しかし最近入社した若い子はそのことを知らないので、当然のものとして請求してきた。

この場合は払わないといけないのか?払わなかったリスクや仮に払ったとして他の社員にはどうすればいいのかを知りたい。

相談内容  

  • 残業代の請求をされたが無視をしたらどうなるの?ペナルティーなどある?
  • 従業員に残業代を支払わなくてもいい場合はあるの?
  • 残業代請求をされたときに顧問弁護士に相談することは?
  • 残業代請求をされた後に取るべき行動・対処法は?
  • 残業代請求をされた判例は?

◾担当弁護士

ここ数年働き大人と若者の間の働くことへの意識がだいぶ変わり、そこの乖離で悩まれている管理職・経営者の方が多くいらっしゃいます。

しかし残業代に関しては、今も昔も変わらず原則支払う義務があります。

今回は残業代支払いに関しての確認事項や弁護士への相談ポイントを解説します。

本記事の執筆者

福谷 陽子

元弁護士 京都大学法学部卒業後、10年間の弁護士実務を経て、ライターに転身。
現在は法律記事を中心に多数のメディアや法律事務所などの依頼を受けて執筆活動を行っている。

公式HP:元弁護士・ライターぴりかの法律blog(https://legalharuka.com/

残業代請求をされたとき無視していたらどうなるか

もしも会社で従業員にサービス残業をさせており、残業代請求されたときに無視したらどうなるのでしょうか?

1-1.労働基準監督署に通報される

まずは労働基準監督署に通報される可能性があります。

労働基準監督署は、管轄の企業(事業所)が適切に労働基準法を守って運営しているかを監督する機関です。域内の会社が労働基準法違反をしていたら、指導勧告を行ったり刑事的に立件したりします。

残業代不払いは労働基準法違反なので、サービス残業をさせている疑いを持たれると、立入検査を受けたり送検されたりする可能性があります。

1-2.労働組合から団体交渉を申し入れられる

次に労働者が相談した「労働組合」から団体交渉を申し入れられる可能性があります。使用者側は団体交渉を拒絶することはできないので、申入れがあったら必ず応じる必要があります。不用意に団体交渉に臨み、不利な書面にサインしてしまったら、その後会社に重大な不利益が及ぶ可能性もあります。

1-3.労働審判、訴訟を起こされる

従業員から労働審判や労働訴訟を起こされる可能性もあります。

労働審判の当初3回は調停(話し合い)で手続きが進みますが、3回の話し合いで解決できなければ「審判」となって裁判官に残業代の支払い命令を出されてしまう可能性があります。

訴訟をされると、労働者側が残業した事実と未払い残業代の金額を主張・立証すれば、残業代の全額と遅延損害金、付加金(元本の2倍の金額)の合計の支払い命令を出されてしまう可能性があります。

1-4.刑事罰を適用される

残業代不払いは労働基準法違反であり、刑事罰も適用されます。悪質な残業代不払いの実態が明らかになると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑となる可能性があります。

残業代請求をされても支払わなくてもいい場合とは

会社が従業員から残業代請求されたとしても、支払いをしなくて良いケースがあります。いったいどういう場合なのか、みてみましょう。

2-1.時効が成立している

1つは残業代請求権が時効になっているケースです。残業代を含めた給与請求権は2年で時効にかかるので、残業代が発生してから2年が経過していたら、支払いに応じる必要がなくなります。

田中さんのケースでも、2年以上前にやめた従業員からの残業代請求なら拒否することができます。2年以内にやめた従業員であっても、発生から2年が経過している分については支払わなくて良いので、請求金額を減額できる可能性があります。

2-2.証拠がない、足りない

2つ目は、残業代の証拠がない場合や不足している場合です。従業員が根拠もなく「〇〇円の残業代が発生している」などと言っているとき、裁判でも支払い命令は出ませんし、支払いに応じる必要はありません。

田中さんのケースでも従業員が何の証拠も計算書も示さずに、「〇百万円の残業代が発生しているので支払ってください」などと言っているだけであれば請求に応じる必要はありません。まずはきちんと証拠や計算書を示すように求めるのが良いでしょう。

2-3.そもそも残業代が発生していない

3つ目のパターンは、そもそも残業代が発生していないケースです。

みなし労働時間制や裁量労働制が適用される場合や「管理監督者」に該当する場合、残業代禁止命令を出していたのに従業員が勝手に残業した場合などには、残業代が発生しないので、請求に応じる必要がありません。

ただ田中さんの場合には、社内でサービス残業が当然のように行われていたということなので、この条件に該当する可能性は低いと言えるでしょう。

残業代請求をされたときに顧問弁護士に相談すべきこと

会社に顧問弁護士がいたら、残業代請求を受けたときにすぐに相談しましょう。以下で、顧問弁護士にどのようなことを聞けるのか、ご紹介します。

3-1.残業代が発生しているのか?

残業代請求されたときに重要なのは「そもそも残業代が発生しているのか」ということです。

たとえば「みなし労働時間制」(実労働時間に限らず一定時間働いたとみなす制度)や専門職・企画業務型の裁量労働制が適用される場合、長時間働いたとしても残業代が発生しない可能性があります。また企業側が「残業をしないように」と指示をしていたにもかかわらず、従業員が指示に従わず勝手に残業をしていた場合にも、残業代は発生しません。

実際には残業をしていないのに、従業員が勝手に勘違いをして残業代請求している可能性もあります。適切に残業代を支払っているにもかかわらず、従業員が「もっともらえるはずではないか」と考えて請求する事例もみられます。

社内では残業代請求に応じるべきかどうか、適切な判断が難しいことが多々ありますが、顧問弁護士であれば、法的な観点から残業台の支払に応じた方が良いのか、正しく判断してくれます。

残業代の支払義務があるのに放置していると、労基署から注意されたり裁判を起こされたり刑事罰を科されたりなど重大な不利益を受けるので、早期に弁護士に相談すべきです。

3-2.支払額を減額できないか?

残業代請求をされたとき、残業代が発生しているかどうかだけではなく、残業代の「金額」も重要です。

従業員側の計算は間違っていることも多々ありますし、非現実的な推定計算をしている場合や証拠が不十分なケースもよくあります。

そのような場合には相手の間違いを正して支払額を減額させることができますし、従業員側の立証が不十分であれば、その程度に応じて支払い額を抑えることも可能です。

さらに不払いとなっている残業代を早期一括で支払う代わりに減額するよう交渉する方法も考えられます。

顧問弁護士に相談すると、実際のところどのくらいまで支払をすべきか提案してくれますし、従業員との減額交渉を代行してもらうことも可能です。

3-3.裁判して争うべきか話し合いで解決すべきか?

従業員が残業代を請求してきたとき、話し合いでは折り合いがつかないケースがあります。その場合、交渉を決裂させると労働審判や訴訟を起こされてしまいます。

特に訴訟で負けると、残業代に遅延損害金や付加金が加算されます。田中さんのようにやめた従業員の場合、遅延損害金の割合は14.6%となりますし、付加金は残業代の金額と同額です。

つまり判決が出ると、本来の2倍の残業代と14.6%の遅延損害金を支払わねばならない可能性があるのです。

訴訟をしてこのようなリスクを取るのか、早めに話し合いで解決するのか、企業にとっては悩ましい問題です。

顧問弁護士に相談していたら、状況(勝訴の見込みなど)に応じて適切な方法をアドバイスしてもらえます。

田中さんのケースでも、自己判断でリスクを取るより、早期に労働問題に強い弁護士に相談してアドバイスを求めた方が良いでしょう。

残業代請求をされた後にとるべき行動・対処方法

田中さんのように従業員や元の従業員から残業代請求をされたとき、どのように対処すれば良いのか解説します。

4-1.残業代が発生しているのか調査する

まずは、自社内の資料や記録などを調べて、本当に残業代が発生しているのかを確認しましょう。

たとえばタイムカードやシフト表、日報などの記録を見ると、その従業員の勤務時間をチェックできます。そこで従業員が所定労働時間を超えて働いた記録がなかったら、「残業していないから残業代は発生していない」と反論することが可能です。

ただしタイムカードを切らせた後で働かせていた場合などには、再反論が来る可能性もあります。

4-2.いくらの残業代が発生しているのか正確に計算する

残業代が発生している可能性があるならば、いくらになっているのか正確に計算する必要があります。従業員側の計算が間違っているケースも多々あるからです。

残業代は、法内残業と法外残業とで計算方法が異なります。

1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間内の法内残業(所定労働時間を超えた残業)であれば割増賃金はなくそのままの計算となりますが、上記の法定労働時間を超えた法外残業の場合には、1.25倍の割増し計算をする必要があります。深夜労働なら1.25倍、休日労働なら1.35倍の計算となります。

残業代の計算式

  • 1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増賃金率

法内残業と法外残業、深夜労働(深夜残業)、休日労働(休日残業)にわけてそれぞれ計算し、合計します。

計算方法がわからない場合には弁護士に相談してみましょう。

4-3.支払い義務があるならきちんと支払う

残業代請求されたとき、支払義務があるならばきちんと支払う姿勢が大切です。明らかに残業代不払いなのに頑なに拒否しても、裁判をされたら負けて遅延損害金や付加金を足されますし、刑事罰を受ける可能性があります。それだけではなく社会の信用を失い、経営困難となってしまうリスクも発生します。

不払いの金額が判明したら、従業員側と交渉をしてできるだけ有利な条件で和解し、合意書を作成して支払ってしまいましょう。

5.企業が残業代請求をされた判例

以下で、企業側が従業員から残業代請求をされた裁判例を示します。

大阪地裁平成14年7月19日 光和商事事件

営業職の従業員が残業代を請求した事案で、「みなし労働時間制」が適用されるかどうかが争われました。

裁判所は、この従業員の勤務時間が会社によって定められており、営業職であっても朝出社して午後6時までに帰社し、清掃をして業務日報を提出して帰ることになっていたこと、営業の外回り中も携帯電話を持たされ会社によって管理されていたことなどから、「みなし労働時間制」の適用を否定して、従業員による残業代請求を認めました。

http://www.zangyoudaiseikyuu-soudan.com/precedent/04.html

残業代請求の裁判では、企業側の反論が認められるケースと認められないケースがあります。弁護士に相談して、有効な反論をすることが大切です。

残業代請求をされた場合はいち早く事実確認をすることが大切

基本的に残業が発生しているケースで企業側が勝訴できる可能性は低いです。それを避け残業代請求を無視したりしていると、労働基準監督署が動いたり弁護士を立てられりして、本来払うべき残業代より多く支払う危険性が出てきます。

なので残業代請求された場合、まずは真摯に対応し事実確認をしましょう。そのさいには弁護士に依頼することで正しく対処することができるので、すぐに相談するようにしましょう。

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この記事の作成者

カケコム編集部