労働 労働問題

残業代請求しても負けてしまうケースとは?勝つために必要な準備を紹介

従業員であれば必ず残業代請求で勝てる!と考えている人も多いのではないでしょうか?実際に残業代の支払いが行われることが多いのですが、職級や働き方によっては残業代請求で負けてしまう可能性があります。

今回は残業代請求で負けてしまう原因やそれに対応するための方法を解説していきます。

残業代についての悩み|職権の認識の乖離に伴って増加

◾相談者さま

管理職になって残業代が出なくなったが、仕事内容や権限は以前と大差ない。これは企業側の残業代削減のための施策ではないのか?

こういった場合労働基準法違反で訴え残業代請求ができないのか?

名前/年齢/性別

矢野景子(仮名)/38歳/女性

相談背景

新卒で入社した会社を退職する予定。原因は残業が多くなってきたため。3年ほど前から営業部長となり仕事量が増え残業時間が増えたが、管理職でなおかつ裁量労働制を取っているので残業代の支給がない。そうであれば職位を下げて転職を検討している。

しかし実際管理職といっても小さな会社なので部下はたった1人。実際に自分が動いている場面も多いので本当に管理職なのかと思う部分も多い。なので退職時に過去の残業代を請求できないかと悩んでいる。

相談内容  

  • 従業員から会社に残業代請求をする際に負ける可能性があるケースは?なにが原因?
  • 負ける可能性を低くするために従業員がしなければいけないことはなに?
  • 従業員が残業代請求で負けた判例紹介

◾担当弁護士

ここ数年残業代請求に関するトラブルが多発しています。基本的には残業が発生した時点で従業員側が勝つことが多いのですが、稀に管理職規定や裁量労働制で負けてしまうケースが出てきています。

今回は残業代請求に関しての確認事項やしっかりと回収するための証拠の集め方などを解説します。

本記事の執筆者

福谷 陽子

元弁護士 京都大学法学部卒業後、10年間の弁護士実務を経て、ライターに転身。
現在は法律記事を中心に多数のメディアや法律事務所などの依頼を受けて執筆活動を行っている。

公式HP:元弁護士・ライターぴりかの法律blog(https://legalharuka.com/

残業代請求しても負けてしまうケースとは?

まずは残業代はあどういう立場でどういう状況であるかを正しく理解することにしましょう。

 

残業代を請求できるケースとは

 

1-1.残業代を請求できるケースは「所定労働時間」を超えて働いた場合

そもそも残業代は、どのようなケースで請求できるのでしょうか?

残業代は、会社との労働契約で決められた労働時間を超えて働いたケースで発生します。

労働者が会社に雇用されるときには「労働契約」を締結します。労働契約では、労働者が定められた時間数働いて、その対価として企業が定められた給料を支払う約束をします。

そこで、労働者が約束した時間以上に働いたら、企業は約束した以上の給料を払わねばなりません。それが残業代です。

労働者が基本的に会社で働く時間を「所定労働時間」と言いますが、これは、当初の労働契約や就業規則によって決まっています。

1-2.2種類の残業代

所定労働時間を超えて働き残業代が発生する場合、2種類があります。

1つは法定労働時間内の残業代、もう1つは法定時間外労働の残業代です。

法定労働時間とは、労働基準法が定める限度の労働時間です。一般の労働者の場合の法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間です。36協定という特別の協定を締結していない限り、法定労働時間を超えて働かせると違法になります。

所定労働時間が法定労働時間より短い場合、法定労働時間までの残業は「法内残業」となります。

これに対して法定労働時間を超えて残業する場合の残業代を「法外残業」「法定労働時間外残業」と言います。

1-3.法内残業と法外残業の違い

法内残業と法外残業の違いは、割増賃金です。法内残業の場合には、賃金の割増計算はなく、超過分をそのまま請求します。

一方、法定労働時間外残業の場合には、基本的に1.25倍の割増賃金が適用されます。

また法内残業は36協定を締結しなくてもさせることができますが、法定労働時間外残業は、労働組合や労働者の過半数の代表者との間で36協定を締結して労基署に提出しないと、させることができません。

1-4.残業代を請求できる可能性が高いパターン

残業代を請求できる可能性が高いのは、以下のような場合です。

所定労働時間を超えて働いているのに残業代をもらっていない

当初の労働契約で取り決めた以上に働いても残業代が支払われていないなら、請求可能です。

1日8時間、1週間に40時間を超えて働いているのに割増賃金をもらっていない

法定労働時間を超えて働いているなら時間外労働の残業代(1.25倍)を請求できます。

深夜労働、休日労働しているのに割増賃金をもらっていない

深夜労働(午後10~午前5時まで)働いた場合には1.25倍、週に1度の休日に働いた倍には1.35倍の割増賃金を請求できます。

管理職になり、職務内容はほとんど変わっていないのに残業代をもらえなくなった

管理職になって残業代を支払ってもらえなくなったとき、これまでと職務内容が変わっていなかったり待遇が変わっていなかったり裁量が認められていなかったりしたら、従来通り残業代を請求できます。

外回り営業職で、外にいても上司から指示を受けて仕事をしているのに残業代をもらえていない

外回りの場合、みなし残業代制度が適用される可能性がありますが、職務の遂行方法に裁量がなく上司から指示を受けているなら、通常通り残業代が発生します。

専門職ではないのに裁量労働制を適用されて残業代が支払われていない

裁量労働制が適用されるのは一部の専門職と企業の中枢に関わるような企画業務だけなので、そういった職業でないなら残業代を請求できます。

「年俸制、フレックスタイム制、変形労働時間制なので残業代が出ない」と言われている

これらの制度が適用される方でも残業代が発生するので、支払われていないなら未払い残業代を請求可能です。

 

以上のように、残業代を請求できるパターンは非常に多彩です。たくさん働いている割に給料が少ないと感じているならば、一度弁護士に相談してみた方が良いでしょう。

 

矢野さんのケースでも、管理職になったとたんに残業代をもらえなくなっていますが、実際にはこれまでと同じような仕事をしていて特段広い裁量や大きな権限を認められていないのであれば、残業代が発生する可能性が高いです。

また裁量労働制が導入されているとのことですが、管理職になるまでは残業代をもらえていたのであれば裁量労働制が導入されているとは考えにくいですし、仕事の内容からしても裁量労働制を導入できるとも考えにくいので、実際には裁量労働制を適用できる場面ではないでしょう。

きちんと請求をすれば、残業代を支払ってもらえる可能性が高い事案と言えます。

残業代請求をしても負けるケース

矢野さんのように残業代が発生している場合でも、残業代請求をして負けてしまう可能性があります。どのようなケースおいて、どういった理由で残業代請求に負けるのか、みてみましょう。

2-1.時効が成立している

1つは時効が成立しているケースです。

残業代の時効は2年ですから、発生してから2年が経過すると、請求できなくなってしまいます。

矢野さんの場合、3年前から残業代をもらっていないということですが、今すぐに請求したとしても払ってもらえるのは2年分のみです。請求が遅れれば遅れるほど、請求できない残業代が多くなってしまいます。なるべく早く請求すべきです。

2-2.対応に失敗する

残業代請求に負ける2つ目の理由として、適切な対応をとれなかったことがあります。たとえば残業代を正しく計算できなかった場合、会社に残業代請求をしたけれど無視されて泣き寝入りしたケース、労働審判を起こしたけれど、会社が強硬に残業代の支払を拒絶するのであきらめて取り下げたケースなど、自分で手続きをするとうまく対応できずに失敗する可能性が高まります。

2-3.管理監督者に該当する

3つ目の負ける原因が、管理監督者です。矢野さんの場合にはおそらく管理監督者に該当することはありませんが、出退勤の時間に裁量があり、人事権をもっていたり企業の重要な意思決定に関わっていたり給与面でも好待遇を受けていたりするならば、労働基準法の「管理監督者」に該当して残業代請求が認められません。

2-4.裁量労働制が適用される

イラストレーターやコピーライター、プログラマーなどの専門職や企業の中枢の企画営業に関わる労働者には、裁量労働制を適用することが可能です。きちんと労働組合との協定や労働委員会での議決と労基署への届出などの手続きを行い、適法に裁量労働制を導入している場合には、残業代は発生しなくなります。

2-5.残業時間を証明できない

残業代請求をしても負けるパターンでよくあるのが「証拠不足」です。

残業代請求をするときには、必ず証拠が必要です。資料がないと残業時間を計算することも不可能です。

ところがタイムカードや営業日報、シフト表などを集めようとしても、入手できないケースが多々あります。

その場合、証拠がないので残業代請求をあきらめてしまったり、請求しても会社から返り討ちに遭ってしまったりする可能性が高くなります。

実は、労働者本人が思ってもいないようなものが証拠となって残業代請求できるケースもあるので、手元に証拠がなかったら、一度弁護士に相談に行ってみることをお勧めします。

2-6.上司から残業を禁止されている

上司や会社から明確に残業を禁止されているのに、勝手に自己判断で残業をした場合には、残業代請求をしても負ける可能性が濃厚になります。

負ける可能性を低くするために従業員がしなければいけないこと

残業代請求をしても認められなかったら労力と時間の無駄になります。

負ける可能性を低くするためには、以下のような点に注意しましょう。

3-1.時効完成前に請求

1つ目は、時効の成立を防ぐことです。時効になってしまったら、いくら高額な残業代が発生しても0になりますから、残業代が発生しているならば、とにかく早めに請求をすることが重要です。時効成立が間近でも裁判を起こせば時効を中断できるので、早めに弁護士に相談に行きましょう。

3-2.しっかり調査して法律構成を整える

適当な対応で失敗しないためには、しっかりと残業代の発生根拠や金額、請求方法を調べて適切な方法で請求をしましょう。

そのためには残業代の正確な計算方法を知り、請求書の作成方法を調べて正しく作成し、会社に送って交渉をすることが必要です。会社が支払に応じない場合には、裁判所で「労働審判」を申し立てたり「労働訴訟」を起こしたりすることも要求される可能性があります。自分で対応するのが難しければ、弁護士に対応を依頼した方が安心です。

3-3.証拠を集める

残業代請求で負けないため、非常に重要なのが証拠集めです。

残業代請求の証拠としては、以下のようなものが重要です。

  • タイムカード
  • 業務日報、営業日報
  • シフト表
  • タコグラフ
  • 交通ICカード
  • オフィスビルの入館記録
  • 業務用パソコンのログインログオフ記録
  • 業務用のメール、FAX送信記録
  • タクシーの領収証
  • 詳細に付けている日記や手帳

 

また、労働条件を証明するために以下のような資料も用意しましょう。

  • 給与明細書
  • 労働条件通知書
  • 就業規則
  • 労働契約書

 

こういったものが揃っていれば、負ける可能性が低くなります。

3-4.労働問題に強い弁護士に依頼する

残業代請求は、労働者が1人で進めるのは難しい面がある手続きです。自分一人でまずい対応をとってしまったがために負けてしまうケースも多々あります。

そこで証拠集めをする当初の段階から弁護士に相談し、適切な対応をとっておけば負ける可能性が低くなります。

従業員が残業代請求で負けた判例紹介

4-1.東京高裁平成17年3月30日 神代学園ミューズ音楽院事件

この事件では、残業代請求をした従業員が管理監督者にあたるかどうかと、上司による残業禁止命令の効果について争われました。

結果として原告らは管理監督者ではないと判断されましたが、繰り返し上司から残業禁止命令が出ていたことなどが評価されて、残業代の支払い命令は出ませんでした。

http://www.mibarai.jp/kanrikantokusha/kamishiromuse.html

4-2.大阪地裁平成5年12月24日 高島屋工作所事件 

残業ですべき仕事内容を質問すると、上司から「残業をしないように」と言われたにもかからず、自己判断で残業をした従業員が割増賃金を請求した事案です。

裁判所は、残業禁止命令が出ていたことを重視して、残業代請求を認めませんでした。

https://www.mykomon.biz/jikan/jikangai/jikangai_mokuji.html

4-3.大阪地裁平成20年2月8日 日本ファースト証券事件

証券会社の支店長が残業代請求した事案です。裁判所は、原告が30人以上の部下を統括しており支店の経営方針を定め、部下についての人事権も持っていたこと、給与待遇も良かったことなどからして、原告は経営者と一体的な立場にある「管理監督者」に該当すると判断し、残業代請求を否定しました。

http://tsuchiyalow.com/labor/precedent/case3.html#a2

残業代請求に負けないための準備は早いうちから始めること

管理監督者や裁量労働制などの規定に当てはまると、たとえ従業員であっても残業代請求で負けてしまう可能性があります。

そうならないためにも、まずは自分の会社のなかでの立場やそれに見合った権限が与えられているのかを確認しましょう。そのうえで残業代請求に必要な証拠を集めていきましょう。

まず自分が残業代請求で勝てるのかどうかを知りたい場合は、プロである弁護士に相談するようにしましょう。

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