労働基準法違反になるケースと訴えられないための正しい知識
自分たちの会社の職場環境は労働基準法違反になっていないか?そういった心配を抱えている経営者や管理職の方も多いのではないでしょうか?
労働基準法違反は残業代といった賃金だけでなく、休暇や雇用形態などといった働く環境すべてに関わってきます。
放置をしておくと後々大きな問題となり社会的制裁を受ける危険性もあります。今回は労働基準法違反に該当しないどうかのチェックリストを用意しましたので、ぜひ確認していきましょう。

\1分で相談内容を入力/ ◾相談者さま 現時点で社員が大きな不満などは挙げていないが、アンケートを取ると少なからず職場改善の要望が出ている。 正直大きな会社でもないので協力してほしい部分もあるが、どうすればいいのか? 名前/年齢/性別 豊岡啓示(仮名)/43歳/男性/人事部部長 相談背景 地方の中小企業で社員30名ほどのアットホームな会社。社員と経営層が近く1つのグループとなっている。 しかしその中で最近気になることがある。人事面談や総務部への相談に以下のような内容が来ている。 「昼休憩は1時間きっちり取りたい」 最近働き方改革や労働問題に厳しい世の中になっているので、大きな問題になる前にアンケートを取ったら意外と社員が不満を持っていることを知った。 しかし非常に些細なことでもあるが、これもきっちり法的な基準に則して解決しないとダメなのか? そもそもどこからが労働基準法違反になるのかわからないので知りたい。 相談内容 ◾担当弁護士 ここ数年働き大人と若者の間の働くことへの意識がだいぶ変わり、そこの乖離で悩まれている管理職・経営者の方が多くいらっしゃいます。 些細な内容でも積もることで後々大きな問題となりえます。労働基準法違反に該当すると金銭的な部分だけでなく、社会的制裁も受ける危険性があります。 これを機に従業員にとって優しい労働環境のために必要な施策を取るようにしましょう。 福谷 陽子 元弁護士 京都大学法学部卒業後、10年間の弁護士実務を経て、ライターに転身。 公式HP:元弁護士・ライターぴりかの法律blog(https://legalharuka.com/) 企業が人を雇うと「労働基準法」が適用されます。労働基準法に違反すると雇用者にはさまざまなペナルティーが科されますし、最悪の場合「刑事罰」も適用されるので、労働基準法違反を軽く考えてはいけません。 まずは労働基準法がどのような目的で制定されたどういった内容の法律なのか、知っておきましょう。 労働基準法は、労働者の労働環境や労働条件を守り、権利を保障するための法律です。 労働者は、使用者と比べるとどうしても弱い立場になります。自然のままに任せておくと、労働者が不当に搾取されるなどして権利が侵害されてしまう可能性が高まります。 そこで労働基準法は、労働者の権利を守るために、さまざまな保護規定をおいています。 たとえば賃金の支払方法のルールを定めたり、残業をさせるための要件、残業をさせたら必ず残業代を払わねばならないこと、解雇に関する制限を規定したりしています。 労働基準法は、労働者を守るために使用者の自由を拘束する法律です。罰則も規定されているので、労働基準法違反の行為があれば、使用者は処罰されるのです。 労働基準法違反になるのはどのような場合なのか、典型的なケースをご紹介します。 まず、労働時間に関する決まりがあります。労働基準法では、労働者を働かせて良い時間が決まっています。基本的に1日8時間、1か月40時間です。これを「法定労働時間」と言います。 法定労働時間を超えて労働者を働かせるには「36協定」という協定の締結が必要です。36協定なしに労働者を働かせると労働基準法違反となり、罰則が適用されます。罰則の内容は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。 労働者を働かせた場合、使用者は必ず賃金を支払わねばなりません。法定労働時間を超えて働かせたら、割増賃金も必要です。残業代は基本的に1分単位で計算する必要があります。 こうした賃金や残業代を支払わない場合にも労働基準法違反となり、罰則が適用されます。 賃金を支払わない場合の罰則は30万円以下の罰金刑、残業代不払いは6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。 労働基準法は、給料(賃金)の支払方法についても規定しています。具体的には以下の賃金支払いの5原則が適用されます。 賃金は必ず現金で支払う必要があり、現物支給は認められません。 本人に直接給与を支払う必要があります。代理人を介した支払いはできません。 必ず全額支払う必要があります。2回や3回などの分割払いはできません。 必ず月1回以上の給与支払いが必要です。 給与は毎月一定の日に支払われる必要があります。たとえば毎月25日や毎月第2月曜日などです。 これらの賃金に関する原則に違反した場合にも労働基準法違反となり、30万円以下の罰金刑となります。 使用者が労働者を解雇するときには、適式な手続きをふむ必要があります。具体的には、解雇の30日前に解雇予告を行うか、足りない日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。これらの手続きをとらずにいきなり解雇した場合にも労働基準法違反です。 罰則は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。 なお解雇理由がないのに解雇したことは労働基準法違反ではなく労働契約法違反となります。 労働基準法は、労働者を働かせる際に必ず一定時間の休憩を与えるべきと定めています。 具体的には、以下の通りです。 使用者の都合で勝手に休憩時間を削ることは許されません。 休憩時間に関するルールを破った場合にも労働基準法違反となって罰則が適用されます。 罰則は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。 企業は労働者を雇うとき、必ず週に1回以上の「休日」を与える必要があります。これを法定休日と言います。 多くの企業では毎週日曜日が法定休日とされています。毎週土日の週休2日制の場合、土曜日は法定休日ではないことが多いです。 ただし36協定が締結されていれば、休日手当を支払うことによって休日出勤させることは可能となります。 36協定がないのに休日出勤させると6か月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑となります。 労働者を働かせていると「労災」が発生するケースもあります。 労災とは、業務中や業務に起因して労働者が病気になったり怪我をしたりすることです。通勤災害も労災に含まれます。 企業は労災に備えて従業員を労災保険に加入させる必要があり、実際に労災が起こったら、労働基準監督署に報告して労働者が労災保険を受けとれるように手配しなければなりません。これらを怠って労災隠しをすると、労働基準法違反となって罰則が適用されます。罰則の内容は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。 このように、企業が労働基準法となる例はとても多いです。 豊岡さんの会社の場合、 のであれば、労働基準法違反になっている可能性が高くなります。このままだと刑事罰が適用される可能性もあるので、早めに是正すべきです。 もしも企業が労働基準法違反になった場合、誰がどのような処罰を受けるのでしょうか? 労働基準法違反に適用される刑罰は、多くのケースで「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」です。残業代不払い、法定休日を与えなかった場合、労災隠しなどすべてこの内容です。 ただ、賃金に関する違反のように「30万円以下の罰金刑」のみのケース、1年以下の懲役または50万円以下の罰金刑などのもっと重い罰が適用されるケースもあります。 「懲役刑」とは、刑務所に収容されて強制労働をさせられる刑罰です。「罰金刑」は、金銭を納めなければならない刑罰です。罰金を支払えない場合には、労役場に収容されて強制労働をさせられます。 労働基準法で処罰される対象者は、経営者や管理職など直接労働基準法違反の行為をした人です。ケースによっては「会社」そのものも送検されて処罰されます。 一方従業員は労働基準補違反の被害者なので、処罰されることはありません。たとえば従業員が自ら「私は、休憩は要りません」と言って働いていたとしても、従業員が「共犯」になる可能性はなく会社や経営者などが処罰を受けるだけです。 豊岡さんの会社でも、いろいろな問題がありそうです。以下では企業が労働基準法違反になっているかどうか確認するためのチェックリストをご紹介します。 上記に関し、NOであれば、労働基準法違反になっている可能性が高いです。 NOであれば要注意です。 なお、解雇予告の労働基準法を守っていても、解雇が無効になる可能性はあります。 休憩時間を削ったり仕事をさせていたりしたら労働基準法違反です。 当てはまるものがあれば労働基準法違反です。 労働基準法違反になる例はさまざまです。あまり知られていませんが、以下のようなルールもあるので、押さえておきましょう。 労働者が妊娠出産したり、その育児をしたりする際には特別の措置が適用されます。 まず産前産後休暇を取得する権利が認められるので、それらを与えないことが労働基準法違反となります。 また妊婦や産後1年以内の女性労働者が「残業をしたくない」と要求したにもかかわらず残業をさせることも、労働基準法違反です。さらに女性労働者が産後1年未満の場合、定められた「育児時間」を与えないことも違法です。 企業が労働者を雇い入れるとき、労働条件を告知する必要があります。また就業規則を策定し、労働者のアクセスしやすい場所に設置する必要もあります。 労働条件を告知しなかったり就業規則を作成しなかったり就業規則を従業員に見せなかったりすると違法です。 労働者を思想信条や性別などの理由で差別することも労働基準法違反となります。 労働者を意に反して強制的に働かせると労働基準法違反です。罰則は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金と非常に重くなります。 労働基準法違反で訴えられた裁判例を1つ、ご紹介します。 レストランで店長職にあった従業員が店側に残業代を求めた事案です。会社側は「管理監督者」に該当するので残業代が発生しないと反論しましたが、裁判所は「管理監督者」には該当しないと判断し、店側に不払いになっていた残業代の支払いを命じました。 原告に出退勤の自由裁量が認められていなかったことや、店長自らレジ、ウェイターや掃除などを行っており、一般の従業員との差がなかったことなどが考慮されています。 この記事では労働基準法違反にならないためのチェックリストをご紹介しました。非常に重要な内容になりますので、定期的に管理職・経営陣で確認をするようにしましょう。 また上層部だけでなく、従業員へのアンケートの実施も行いましょう。現場でしか気づかない問題や、上層部と従業員の認識のずれを正すことも重要です。 この内容を読んだ今日から実践するようにしましょう。
残業代についての悩み|働く意識の乖離に伴って増加
「朝の早出掃除の日は別支給の給与が欲しい」
「残業代は15分単位でなく1分単位で」
本記事の執筆者
現在は法律記事を中心に多数のメディアや法律事務所などの依頼を受けて執筆活動を行っている。労働基準法違反になるケースと訴えられないための正しい知識
労働基準法とは
労働基準法違反に該当する典型的なケース
2-1.労働時間に関する違反
2-2.賃金・残業代の不払い
2-3.給料の支払い方法
通貨払い
直接払い
全額払い
毎月1回以上払う
毎月一定期日に支払う
2-4.解雇手続きの違反
2-5.休憩時間を与えない
2-6.法定休日を与えない
2-7.労災隠し
3.労働基準法違反で与えられる罰則と対象
3-1.適用される罰則の内容
3-2.処罰の対象者
4.労働基準法違反にならないために事前に対策しておくべきこと、違反のチェックリスト
4-1.残業代、深夜労働、休日労働に関して
4-2.解雇について
4-3.休憩時間について
4-4.労災について
4-5.賃金について
5.意外と知らない、これも労働基準法違反である内容
5-1.妊娠出産に関する取扱い
5-2.労働条件の告知
5-3.思想信条や男女差別など
5-4.強制労働の禁止
6.労働基準法違反で訴えられた企業の裁判例
大阪地裁昭和63年7月30日
労働基準法違反で訴えられないために、チェックリストを頻繁に確認する