別居が離婚には必要?別居が離婚に与える影響やポイントを弁護士が詳しく解説
別居が離婚理由になる、という通説を聞いたことが有る方もいらっしゃると思います。今回は別居が離婚の理由として認められるのか?その場合に必要な条件とは?そもそも離婚に必要な条件とは?別居と離婚にまつわる疑問点を米積弁護士が解説します。

<今回ご解説いただく先生のご紹介>
米積 直樹(よねづみ なおき) 弁護士
青木・米積法律事務所
神奈川県弁護士会 所属
親しみやすい弁護士、法律事務所を目指し、口調や言葉選びに注意し、一方的に喋らないことを信条とした弁護活動を行う。相談しやすさ実現のため、希望によっては出張相談も行う。
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別居は離婚理由になるのか
一定期間の別居は離婚理由になる
他の要素と合わせての判断という前提ではありますが、3〜5年の別居期間での離婚が認められるケースが増えている傾向があります。
一方で、裁判官も「別居が3年超えているから離婚しなさい」とは言いません。もちろん他の状況も総合的に勘案して判断します。
ちなみに長いと7年は別居期間が必要なのか、という話を聞くこともありますが、実際のところ7年必要なケースは最近では殆どないと思います。
ちなみに別居して間もない場合は離婚できないのか、という問題については、他に法定離婚事由、つまり離婚が認められる理由がまったくない場合は離婚をみとめる判決をもらうことはほぼ無理だと考えられます。
法定離婚事由についてはのちほど詳しく解説いたします。
別居が離婚に必要と言われる理由
離婚は夫婦の合意があれば可能ですが、相手が離婚に応じない場合はそうも行きません。相手が離婚に同意しない場合は、裁判所による離婚を認める判決を得る必要があり、そのためには民法770条1項各号が定める「法定離婚事由」という、法律的に離婚可能と認められる理由が必要となります。
民法上、離婚が認められる理由は5つ定められており、この内容については後ほど説明します。このうち、もっとも裁判所が離婚の理由とすることが多い「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)の有無の判断ににおいて、もっとも重視される要素の一つが、夫婦がどのくらいの期間別居しているのかです。
このような離婚裁判の実情から、離婚には別居が必要、あるいは離婚にとって重要と言われているのだと思います。この法定離婚事由とはなにか、そして別居はどんな部分で見られるのかについて以下で解説します。
離婚が認められるために必要な法定離婚事由
法定離婚事由は5つあります。5つのうちのいずれかに該当する状況がある場合は離婚が認められることとなります。
別居はどこに該当するのか、そして他に該当しそうな状況はないか確認しましょう。
1号 不貞行為
この事由はわかりやすいと思うので簡単に解説しますと、夫婦の一方が不倫、浮気といった不貞(性的接触があることが必要です。)を行った場合です。
もちろん不貞行為があったことを証明するための証拠は必要です。
2号 悪意の遺棄
この事由は、少しイメージしづらいかもしれませんが、夫婦の一方が病気で働けず、収入を得ることが出来ない状況であるのに、他方は生活費を負担しないで放っておいてしまう場合が典型例です。
夫婦は互いに助け合って生活するという相互扶助義務(民法752条)を負っているので、前述のような態度は、この扶養義務を果たしていないこととなり、離婚の原因となります。
また、このような夫婦での生活に協力しない状態は、夫婦が別居したうえで実現することがおおいので、その意味で「別居」が影響する事由であるといえます。
3号 3年以上の消息不明(連絡など一切なし)
この事由は、法律の文言どおりです。
ちなみに、相手方の消息が不明の場合にどうやって離婚するか、という疑問があると思いますが、「公示送達」という方法を取ることで、離婚裁判を起こすことが出来ます。
裁判を行うためには「送達」といって、郵送等により裁判を起こされたことを相手方に伝えることが要求されますが、「公示送達」という方法は、相手の住所が分からなくても、裁判所の掲示板に裁判が起こされたことを掲示することによって、相手方にも伝わったものとみなすというものです。
当たり前ではありますが、夫婦が「別居」していることが前提となりますね。
4号 強度の精神的な病気にかかり回復の見込みがない
対象となる精神的な病気には様々なものがあり、制限はありませんが、「強度」のものといえるかの判断は、前述した夫婦の相互扶助義務をはたすことが可能な状態か、といことを基準に判断されることが多いです。
病気の回復の見込みがあるかどうかについて、医学的な判断が必要となります。
5号 その他、婚姻を継続しがたい重大な理由
この事由は一見すると意味が捉えづらいと思いますが、その通りで、非常に広い意味を持つものとして扱われています。
夫婦が離婚に至る原因となる事情は、千差万別なので、様々な事情が離婚の原因となり得るかに包含できるよう、広く捉えられているものです。
上で紹介した1号から4号の事由に当てはまらなかった場合、例えば夫婦の一方が、夫婦以外の異性と食事に行っていたことは分かっているが、性的な接触があったことまでは証明でき出来なかった場合、または、消息不明が3年にはみたない場合でも、この事由が認められる一つの要素としては扱われることとなります。
前述のように、今回の議題である「別居」は、この事由の有無の判断において重要な要素の一つとなります。離婚裁判において、5号の離婚事由を主張する場合、裁判所は必ず別居の有無、および別居期間はチェックするくらいに重要視されています。
上記の法定離婚事由に該当するものがない場合、どんなに離婚を希望しても相手が応じなければ、離婚は難しいです。
ちなみに法定離婚事由、つまり離婚を裁判官に認めて貰う場合に必要な上記5つの理由は「話し合いでは離婚が成立できず、裁判官に判決をもらう」場合に必要となります。逆にいうと「話し合いで両者が離婚に合意すれば上記に該当していなくても離婚はできる」ということです。
その他に別居が離婚に与えうる影響
離婚に対する本気度を相手に示すことができる
同居している間の離婚話は「またか」などと思われかねないので、別居という具体的なアクションによって本気度を示す一つの手段となりうると思います。
実際に相談いただいた事例でも、同居していたが、別居したことによって相手がちゃんと議論に応じてくれるようになった、とお話される相談者様もいらっしゃいました。
別居をされる側からすれば、帰宅したら「家がガランとしている」という状態になり、衝撃を受けるので膠着していた離婚の話し合いが進むきっかけになることはあります。
同居しながらの離婚の話し合いよりも、感情的な対立を避けやすくなる
離婚の話し合いは、感情的になってしまう可能性が非常に高い問題です。結婚生活で溜まった鬱憤が爆発するという形で「相手への悪口の言い合い」に発展しやすいのです。
そのような感情的なわだかまりを抱えながらも、離婚の話合いをしていない時間は、同じ屋根の下、生活を共にしなければならないので、肉体的にも、精神的にも負担は大きくなってしまいます。
その意味では、別居することで、そのような負担がなくなり、冷静になってお互いが考える時間が取れるようになるため、話し合いをすすめやすくなるという側面はあると思います。
気が変わってもやり直しが難しい
上で述べたとおり、別居という行為が相手方に与える衝撃は大きいことから、相手方も別居によって離婚への意思を固めることが多く、その後の修復は難しくなることが多いです。
事前に話し合いで「一旦距離を取ろう」という合意があっての別居であれば修復できる可能性も通常の別居よりも高いかもしれません。ですが通常の別居はある日突然、というケースが多く、相手が受ける衝撃の大きさから修復にハードルが有ることは覚悟すべきかと思います。
離婚について、相手に原因がある場合は証拠収集が難しくなる
別居によって、生活が全く別になりますので、離婚の際に自分に有利になるような証拠の発見、収集が難しくなります。
離婚原因に関わる証拠だけではなく、離婚時に問題になる財産分与の資料となる財産情報(預金、証券の有無など)にかかわる証拠も収集しづらくなってしまいます。
特殊な場合
原因を作った配偶者が別居を離婚理由にしたい場合
前提として、例えば不倫などの離婚原因を作った方の配偶者(「有責配偶者」といいます)から離婚を請求することは、原則難しいと考えていただいた方がいいと思います。
判例は、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合として、①夫婦が長期間の別居をしており、②夫婦に未成熟な子どもがいないこと、③夫婦の他方にとって離婚を認めても経済的・精神的に過酷ではないことが認められてはじめて、離婚を認めるという非常に厳しい態度をとっているからです。
以上のように「別居」は、有責配偶者からの離婚が認められるための必須の要件となっています。どれくらいの期間の別居が「長期」といえるかは、夫婦間の事情によって異なりますが、短くとも7年ほどは要求されている印象です。
別居する際に気をつけるべきポイント
別居後の生活設計について考えることが大事です。特に考えるべきポイントをまとめました。
別居先の確保
実家や、自身で賃貸するケースがあります。
実家に戻らないケースとしては実家が地理的に遠い、ご両親が亡くなられている、ご両親との不仲、会社への距離的問題、お子さんの通学圏を維持する目的、などがあります。
ただし、別居先と元の家が近すぎると生活圏が近すぎて、配偶者と出くわすことがあり得るので注意が必要です。
仕事をしていない場合は賃貸をする場合、保証人が必要になることが多く、誰に保証人になってもらうかで困ることもあります。
その場合、兄弟姉妹や、保証料を払って企業にやってもらうという手段もありますが、企業を頼る場合は一定の収入が有ることが条件です。
保証人不在の問題は少し難しいですし、不安な場合は弁護士への相談をおすすめします。どんなことに注意するべきかや対策についてアドバイスできます。
DVなどの被害を受けていた場合はシェルターも利用できます。以下の民間シェルターについての行政のHPをご確認ください。
収入の確保
ある程度の収入があると安心です。具体的には別居先で自力で数ヶ月は生活できる、という状態です。
別居中の生活費として婚姻費用がもらえることはもらえますが、必ずしもすぐに貰えるわけではありません。裁判所を通じての請求の場合など、最初に払ってもらうまで数ヶ月かかることはあります。
なので数ヶ月分の財産や、最悪に備え婚姻費用がなくても生活できるレベルにはしておくと良いと思います。
就労できない状況の方は生活保護を受けることもできますので一つの選択肢として検討するのもありです。
もちろん生活保護受給については審査があります。主にすぐに働けない事情の説明が必要です。
生活保護の注意点としては、働きながらの別居の場合は受給できない可能性が高く、収入を補う形での受給は厳しいです。
離婚後の親権について
裁判所の親権者の決定判断には、お子さんの現状の生活環境を変化させないほうが望ましいとする傾向があります。
親権については、離婚する夫婦間に子供がいる場合は必ず親権者を決定しないと離婚ができませんので、別居時点で親権を意識することもいいと思います。
気になる方は、コチラの記事でも詳しく解説していますので、ご確認ください。
必要な場合、証拠を集めてから別居する
先述の通り、別居後は物理的に離婚時に必要な証拠類の入手が困難になるので、相手に離婚原因があり、財産分与や慰謝料請求に必要になりうるものはコピーをとっておくなどすることをおすすめします。
財産分与に必要な証拠として挙げられるのは預金通帳、証券会社の残高記載書類、保険金の払い戻し通知書、保険証券などです。
財産分与にこういった証拠が必要になるのは、どこに相手財産が有るのかわからず夫婦合計財産が不明になったり請求ができない、という状況を避けるためです。
慰謝料に関わるケースとしては、相手が浮気・DVしている場合です。これらの状況があるならば請求に必要な証拠も持って出ましょう。
例えば浮気相手とのLINEのやり取りやSNSへの浮気がわかる書き込みなどを、削除されても主張できるように自分のスマホで写真に撮っておくことや、DVであれば怪我の写真、診断書、録音や動画などがあるといいでしょう。これに加えて日記があれば、証拠とつなぎ合わせて被害を証明しやすくなります。
婚姻費用について
別居中の生活費として、夫婦のうち収入の多い方に婚姻費用を請求することができます。
婚姻費用とはなにか、請求方法などを以下で詳しく解説します。
別居時の生活費、婚姻費用について
婚姻費用とは
夫婦が生活を維持するために負担する生活費のことを言います。
別居で婚姻費用と言えば、夫婦の双方が同じ水準で生活ができるように、収入が多い方から低い方へ払われる費用のことを言います。裁判所においては、婚姻費用はお互いの収入によって決定されるので、夫婦で話し合って決める場合にも、その金額が参考にされる場合も多いです。
婚姻費用の請求方法
協議
話し合いで請求します。水道光熱費や食費などを負担してもらう、など双方が納得できれば自由に決められます。
支払う金額について、滞納に備えて約束する書面があったほうがベターですが、書面を作らなくとも、婚姻費用が支払われたことが預金口座の取引記録等から明らかな場合は、そのような合意があったことを客観的に推測し、それについて請求手続きを取ることはできます。
婚姻費用分担請求調停
裁判所での調停で、費用の決定や支払いの要請を求める場合に申し立てます。この調停の成立後であれば裁判所からの差し押さえも可能になります。
この調停で決まらなかった場合は「婚姻費用分担請求”審判”」を行い、話し合いではなく裁判所が決定することになります。
婚姻費用は算定表を基準にして決めます。算定表通りにすべてが決まるわけではなく、事案ごとの事情を考慮します。例えば子供が私立高校に行っているので負担が大きいとか、住宅ローンを払っているから、などの事情があれば考慮して決定します。
早期に支払いを受けたい場合
上記の分担請求調停は一定期間が必要になる手続きです。ですが早期の支払いを受けたい場合には、調停が決まる前に支払を行ってもらう「仮払い仮処分」という手続を申し立てることがで、早期に支払をしてもらうことも可能です。
算定表
算定表については以下の裁判所提供の養育費・婚姻費用算定表 から確認ができます。
(婚姻費用については13ページ目、表10から記載されています)
子供の人数やその年齢によって表が分けられていますので、確認する際は自分の状況にあった表をご参照ください。
最近では、ご夫婦間だけでの話し合いでも、この表を参考にされる方が増えています。
公正証書にするべきか
別居が長期間になる可能性が高い場合はしたほうが良いかと思います。
当初の約束を、後になって「約束していない」などと言い逃れできなくなりますので、長期の別居が予想される場合は公正証書の作成をおすすめします。
婚姻費用が払われなくなったらどうすればいいか
強制執行(差し押さえ)
公正証書がある、もしくは調停が成立したあとならば裁判所の権限で強制執行をかけられます。
逆に、公正証書や調停成立後でなければできません。公正証書がない方などはまずは婚姻費用分担請求調停の申立を検討しましょう。
離婚意思がないのに婚姻費用に甘えて別居するのはありか
もちろん調停や裁判で別居期間が自然と長くなり、結果的になってしまうこともありますが、離婚にも応じず婚姻費用をもらう生活に甘んじているのではないか、という費用を払う側からのご相談を受けることもございます。
長期に及んでいるのであれば、婚姻費用を払っている側から離婚請求をすることもありますし、「離婚前提の別居」と反していたのであれば、根拠として使えます。別居された側からも法定離婚事由の5号が適用でき離婚が成立する可能性がある、ということです。
別居をするのであれば、まずは気持ちを落ち着けることが大事ではありますが、しっかり現在の夫婦の関係に対する結論を出していくようにしましょう。
別居を思いとどまる理由
生活変化に対する恐怖
生活環境が変化することが怖い、やっていけるのか、という不安で踏みとどまっている方は多い印象です。
特に専業主婦の方は働くこと自体も不安ですし、加えて育児もとなれば、両立できるのか悩まれるケースが見受けられます。
不安に対して弁護士が手助けできること
働くことでの変化にご自身が耐えられるかは、弁護士でもわかりかねてしまいます。ですが、今後起こりうる流れをアドバイスすることで、予期や判断の手助けはできます。
生活変化で最も心配されるのは、収入的な問題かと思います。そんなときに弁護士ができることとしては、婚姻費用を受け取れる可能性を上げる、そしてそのタイミングを早めることで、生活費の不安を軽くできる場合があります。
別居について困ったときの弁護士活用について
別居前に弁護士に相談するメリット
これまで本記事で述べてきた別居が与える影響について、弁護士としての経験や知識から、具体的なご説明をご相談者様が受けることができます。
また、それぞれの状況によって見えるゴールが変わってくるので、自分の状況ではどういう結末になりそうかの展望を持てる、という点でも相談することにはメリットがあります。ルール通りの夫婦生活など、現実には存在しないとおもいますので、不安に感じたら一つの手段として検討してみてはいかがでしょうか。
説明を受けることでイメージがわき、別居前にすべきことなどもわかるので、後で後悔する可能性が減らせるかと思います。
別居中の代理人依頼
別居して離婚に本格的に動き出したときに、交渉等で不安な場合などに依頼されるケースは多いです。
交渉以外でのメリットもあります。例えば相手との交渉窓口が弁護士になり、ご依頼者様が直接相手とやり取りしなくて良くなりますので、精神的なご負担はかなり減らせることと思います。
こういった問題は人生への影響度が大きいので、ぜひ後悔しないように一度は弁護士にご相談をされるのがよいと思います。法律事務所に行ったからといっていきなり高額な金銭を払うことにはなりませんので、安心してご相談されてください。