あおり運転同乗女性は現場助勢罪の罪に問われるのか?
あおり運転事件にて、ガラケーで撮影している女の様子を写したドライブレコーダーの記録が話題になった。こうした行為は罪に問われるのか?何の罪に問われる可能性があるのか、現役弁護士にご解説いただいた。

今回ご解説いただく弁護士のご紹介です。
林 佳宏(はやし よしひろ)弁護士
前職は警察官で、弁護士になってからは企業内弁護士をしていた経験もあります。このような様々な経験を活かし、多様な角度からお悩みを聞き、見ることができます。ぜひご気軽にご相談ください。
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事件の背景
2019年8月10日、常磐道で会社員の男性(24)の車の前に割り込み停車させた上、男性の顔を数回殴ってけがをさせたとして、茨城県警は18日、宮崎文夫容疑者(43)を逮捕した。
また、宮崎容疑者を自宅マンションにかくまったとして、宮崎容疑者の交際相手、喜本奈津子容疑者(51)も同日逮捕した。
この事件では、喜本容疑者が事件当時、車から降りて事件の様子を携帯電話のカメラで撮影している様子を映したドライブレコーダーが話題になった。一部ニュースサイトでは、このような行為は現場助勢罪にあたるのではと取り上げられたが、実際どのような罪に問われる可能性があるのか、元警察官の弁護士である林佳宏(よしひろ)先生に解説いただいた。
事件の様子を撮影していた場合、どのような罪に問われる可能性があるのか?
結論から言うと、喜本容疑者のように特に制止することもなく事件の様子を撮影していた場合、傷害罪の幇助犯にあたる可能性がある。
これは傷害事件を起こした本人の傷害行為を,物理的・心理的に容易にする行為をした場合に問われる罪状だ。
傷害罪の幇助犯と現場助勢罪
今回の事件が傷害罪の幇助に問われるという一方、一部メディアで取り上げられた現場助勢罪はどうだろうか。傷害罪の幇助犯と現場助勢罪の定義は以下の通りである。
傷害罪の幇助犯
まず傷害罪について、刑法204条にて「人の身体を傷害した者」は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」ことが規定されている。
また、こうした罪を幇助する人についても、正犯の犯罪の実行を容易する行為をしたとして、刑事責任が問われる(刑法62条1項)。
現場助勢罪
傷害罪、傷害致死罪が行われている現場で、犯行をけしかけたりはやし立てたりすること(刑法206条)。なお,傷害罪に幇助犯が成立する場合にはそちらの適用が優先され,本罪は成立しない。
わかりやすく言うと、知人などの行う傷害行為を心理的物理的に行いやすくする等一方の傷害行為だけを容易にする行為は傷害罪の幇助犯、見ず知らずの第三者同士の喧嘩の際に双方とも煽るような行為は現場助勢罪に問われる可能性があるのだ。
今回のあおり運転の事件の場合、宮崎容疑者の直接の知り合い(交際相手)である喜本容疑者が、犯行を促進させる行為をしたとして、障害幇助罪にあたる可能性はあるが、現場助勢罪は適用されないと考えられる。被害者に対しても暴力行為を行いやすくしているわけではないからである。
まとめ
ここまで常磐道でのあおり運転の事件にて、犯人の交際相手の行為はどういった罪に問われるのか、解説いただいた。
今回のケースでは、喜本容疑者は宮崎容疑者の直接の関係者であることから、事件の様子を撮影する行為は傷害罪の幇助犯となる可能性あるといえる。
自分は直接傷害事件は起こしていない場合でも、その様子を撮影するなど犯行を助長したと捉えられる場合、状況によって傷害罪の幇助犯に問われる可能性がある。関係のない人同士が喧嘩している時に,両者がもっと激しく喧嘩するように囃し立てると,現場助勢罪という犯罪に問われるかもしれない。
自分の恋人や友人が犯罪を起こさないという確証など無い。いま目の前で起きようとしていることは犯罪ではないか、止めるべきではないか、このように自分に問いただす姿勢を持つことが重要だろう。