パワハラの処分に迷ったら?必要準備と処分事例を段階別に弁護士が解説します。
パワハラに関する処分には段階があります。またパワハラ加害者を処分するには事前に準備が必要です。今回は会社側からパワハラの相談を受けることの多い弁護士が、実際にパワハラを処分する場合の注意点や、パワハラのケース別に処分対応の事例を紹介しますので、どういった処分を行うか迷っている企業や経営者、そしてパワハラではどんな処分がくだるか気になる方はぜひ参考にしてください。

今回ご解説いただく弁護士のご紹介です。
勝田亮 弁護士アネスティ法律事務所 代表弁護士平成18年10月 仙台弁護士会登録(59期)バランスを大切にした誠実な対応が得意。金融機関での数年のサラリーマン経験もあり、得意分野は多岐にわたる。詳しいプロフィールはコチラ
パワハラで処分するには
パワハラの加害者を会社が処分することは可能です。但し、処分内容はパワハラのレベルによります。
パワハラの加害者を会社として懲戒処分するには大前提として、社内でパワハラ防止規程を作成して周知する必要があります。この会社ではどういうことがパワハラに当たるのかを明らかにする規程です。この規程がないと、会社としての懲戒処分をする根拠があるのか?という問題になりますので、まだパワハラ防止規程がないのであれば、直ちに作成しましょう。なお、実際に被害があった場合には社内のどこに相談すればよいかについて定めておくことも、パワハラ被害をなくすためには有益です。
加えて私が「パワハラをなくすためにはどうしたらよいでしょうか?」と聞かれた際に行うアドバイスとして、「社長として、この会社からはパワハラをなくす」という強いメッセージを社内向けに発信してください、とお伝えしています。具体的には、「パワーハラスメント撲滅」などのキャンペーンを行うとか、社内報に社長メッセージを書くなどの方法で周知することなどです。社員が「うちの会社の方針としてトップがそこまで考えてくれているんだ」「なにかあったら相談しようかな」という心理的安全性を持つことができますし、リーダーも気をつけることに繋がります。また、早めに相談が上がってくることで、何も言わずに退職してしまうような悲劇も防げる可能性が上がります。
令和元年5月29日、いわゆる「労働施策総合推進法」が改正され、パワハラ防止対策の法制化がされましたので、パワハラ撲滅の社長メッセージを発行するには絶好の機会かと思います。
パワハラのケース別処分事例
加害者が逮捕されたようなケース
対象行為と処分内容
身体的な攻撃や精神的な攻撃があって、加害者の社員が逮捕され加害者自身が行為を認めているような場合は、会社として普通解雇、諭旨退職、懲戒解雇を含めた処分を検討できます。身体的な攻撃例としては殴る蹴る等の暴行、精神的な攻撃例としては特定の個人を他の社員の前でさらしもののように侮辱する等の行為です。
暴行の場合は暴行罪に問われる可能性が高いですし、被害者がけがをしてしまった場合は傷害罪に問われる可能性もあります。
注意点
実際にはパワハラだけでいきなりの解雇は難しいので、きちんと就業規則に定めた懲戒手続きに則って処分をする必要があります。
被害者が精神疾患を罹患するようなケース
対象行為と処分内容
パワハラによって被害者の精神障害が発症した場合、加害者は民法709条の不法行為責任を問われる可能性があります。その場合、会社として加害者に懲戒処分を検討することができます。
注意点
但し、パワハラの程度に応じ、懲戒処分を決めることになりますので、諭旨退職、懲戒解雇という重たい処分は難しいでしょう。降格、出勤停止程度の処分が多いと思います。
パワハラかどうか判断に迷うケース
対象行為と処分内容
無視をされたり悪口を言われたりする等のいやがらせ行為があって、被害者から相談を受けたが、直ちにパワハラと判断できないようなケースでは、いきなり懲戒処分まで行うには厳しいです。
但し、この相談を放置すると、被害者が退職したり、あるいは被害が発展してパワハラが顕在化するケースもあるので、早期の対応が必要です。具体的には「パワハラの6つの類型について知りましょう」などのアナウンスや告知をして、社員に注意を促す必要があります。場合によってはパワハラ予防研修なども実施すべきです。
注意点
パワハラの有無の調査をする際に、被害者が二次被害を受けないように注意する必要があります。具体的には、加害者と言われている方に直接聞かない、被害を訴えた方が特定されないように注意する、といったことです。
パワハラにあたるかの判断基準
厚生労働省が正式に定めているパワハラ行為は、大きく分けて6種類あります。詳しくは下記記事で解説しておりますので、気になる方はこちらもご確認ください。
具体的にどんな行為がパワハラにあたるのかを把握した上で、それに応じて具体的にどんな対策が必要なのか、パワハラに該当するか否かを判断しましょう。
パワハラの処分対応の流れ
事実関係の調査
社員からパワハラの申告があった場合、まずは事実関係を調査しなくてはなりません。
対象となるのはパワハラ関係者となる加害者、被害者、被害者ではないが申告した社員、などです。被害者や加害者と同じチームの社員など、発生したとされる人間関係に近い第三者へ聴取する必要もあります。前述しましたが、その際に被害者が二次被害を受けないように配慮する必要があります。
パワハラ関係者に行った調査結果を持って、パワハラが事実であったか否かを判断します。場合によっては会社のパワハラに関連する委員等で協議をし、事実認定をします。できれば録音などの確定的な証拠がほしいところです、事実を誤認しての処分は不当処分として会社の信用問題に発展する可能性もあります。
有効な証拠については、コチラの記事(別の弁護士解説記事)もご参考にしてください。
聴取や協議の結果、パワハラが事実でなかった場合はその旨を関係者に伝え、双方の関係の修復を行います。
処分の決定・通告
パワハラが事実であると判断された場合、処分の決定を行います。この際、加害者が再犯であるかどうかや、場合によっては加害者に弁明の余地を与え、その弁明内容を加味して決定します。
処分が決定したあとは加害者に処分内容を通告します。処分が実施されたあとは、再発防止のために社内で研修等を行う等の処置が必要です。
パワハラの処分決定に迷った場合
弁護士へ相談
パワハラ加害者に対する処分は会社にとっても社員にとってもデリケートな問題です。どう対応をするか、どう処分をするかでほかの社員に与える影響も変わってきます。
なにより放置するということはあってはいけません。従業員からパワハラに対応してくれない会社だと思われると、どんどん優秀な社員から転職していってしまい、会社が弱体化していく契機になりかねません。また、会社がパワハラ対応を怠った場合、使用者責任(民法第715条第2項)を問われ、会社が賠償責任を負う可能性もあります。
しっかり問題に向き合い、公正な処分を検討して、今後のパワハラの抑止力となるように、処分決定に迷ったら労働問題に詳しい弁護士へ相談してみましょう。
パワハラの処分について気になる方はこちらの記事もおすすめです。