パワハラの相談先を弁護士が経験を元に解説します!
パワハラの相談先はいくつか見かけることと思いますが、「こんなことを相談していいのかわからない」「それぞれどんな違いがあるのかわからない」という不安から、実際には相談ができていない方も多いのではないでしょうか。今回はそんな悩みを解決すべく、弁護士がそれぞれの特徴、何をしてくれるか、タイミングを解説していきますので、ぜひ参考にしてください。

今回ご解説いただく弁護士のご紹介です。
安藤 秀樹(あんどう ひでき) 弁護士
安藤法律事務所 代表弁護士
仙台弁護士会 所属農学部出身。理系出身であることもあり、わかりやすく・納得のいく説明が得意。物腰柔らかく、気軽に相談できることを大事に弁護活動を行う。
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パワハラの相談先
同僚や上司に相談
まずは職場で自分の味方になってくれるような人を探しましょう。
他にも同じようなパワハラを受けている人が見つかれば、複数証言を通じてパワハラしている人に会社から処分をしてもらえるかもしれませんし、社内でパワハラ加害者と関わらなくて済むように配置転換などで配慮してくれることも考えられます。
そもそもパワハラは密室で行われていたり、パワハラの常習化で職場の感覚が麻痺していて気づけない可能性もあります。周りがパワハラに気づくきっかけにもなるので、声をあげるという事自体が大事になる場合もあります。
社内の窓口に相談
人事労務担当部門やコンプライアンス担当部門、社内のカウンセラーなど、社内の窓口に相談するのも有効です。社内の窓口では、パワハラをした本人からも話を聞いた上で、人事異動や懲戒処分などとるべき措置を検討します。
悲しいことですが、実際にはパワハラがつらくて辞めたくなった時など、そういった状況がパワハラ相談窓口を利用するタイミングとしては多いです。逆にいうとそこまで追い込まれないと相談に行かない方が多いのですが、そこまで追い込まれてしまっていると一時的な健忘症になってしまうこともあり、うまく相談できない、という状態になっていることもありえます。「辛い」「きついな」と感じた時点でのご相談をお考えください。
また、小さい会社の場合にはそもそもパワハラの社内相談窓口が無い、ということもありますし、大手の会社で体制が古い場合、相談窓口自体を「一応設置した」ような場合もあり、相談してもあまり機能していない、という傾向が大きい印象を受けます。もしそういった窓口がなかったり、社風がパワハラを容認する傾向があるのであれば、社外の労働基準監督署(労基署)、弁護士への相談のほうが良いかもしれません。
社外の窓口の相談
社内の窓口に相談しても動いてもらえなかった場合には、社外の窓口に相談しましょう。社外の相談窓口のうち代表的なものとして、労働基準監督署、ハローワーク、労働局、労働委員会が挙げられます。この4つの違いについては後ほど詳しく解説しますので、ぜひそちらをご確認ください。
社外の窓口に相談するきっかけ
きっかけとしてはやはり、会社を辞めるところまで追い込まれている場合が多いかと思います。もしくはハローワークなどの場合のように、辞めたあとに相談に行くケースが多いです。ハローワークに相談しに行く場合は、次の職場が決まっておらず、転職活動に影響のある「自己都合退職」か「会社都合退職」なのか、という部分で争いたい場合が多いと思います。
状況に応じてどの相談窓口を選べばいいのかについては、後の記事を参照してください。
弁護士に相談
パワハラは弁護士に相談することも有効です。裁判をする場合や、示談交渉の際にひとりで臨むのが不安な場合や怖い場合などに、弁護士に相談されることが多いかと思います。弁護士は、相談を聞いた上でパワハラをした本人や会社に対する慰謝料請求など、どのような法的措置を採るべきかアドバイスをすることができます。
また、交渉代理を依頼した場合には、パワハラ被害者と会社の間に入って直接交渉をしてくれるので、自分で交渉をする必要がありません。示談交渉は、裁判をするよりも早く解決できるため、裁判をする予定が無い場合であっても、弁護士に相談して見た方がよいところです。
弁護士を探す際には、弁護士会や法テラスの相談会なども利用することができます。ご自身で弁護士を直接探すことももちろん可能ですが、まずはこういった相談会で知識をつけ、パワハラに対してできることを知ることも有効です。
パワハラに関する社外相談窓口
労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法違反がある場合に対処する組織です。労働基準監督署では労働基準法違反のある企業に勧告という形で注意をすることができますが、労働者と企業の間に入って関係を調整したりすることは基本的にできません。そのためパワハラの対処について企業と揉めていて、仲裁をしてほしいという場合には向いていません。
また、賃金や労働時間、退職について明らかに労働基準法上の問題がある場合には対応してくれますが、労働基準法上に規定がない個別的な紛争であるパワハラでは動く根拠が無く断られることも考えられます。
一方で、パワハラによってうつ病になってしまったり、怪我を負ったなど労災認定を受けることができそうな場合には、労働基準法の問題となっているため労働基準監督署でも対応が可能です。
このように、労働基準監督署で対応できるパワハラ問題はかなり限定されているというのが実情ではありますが、国の運営する信頼できる窓口であり無料で相談が可能なため、まずは相談してみるというのも手です。労働基準監督署について詳しく知りたい方は以下の記事をお読みください。
ハローワーク
ハローワークは、雇用保険、離職理由に関する相談を受ける機関です。パワハラを受けて、もし退職した場合、失業保険の給付を受けるためハローワークに行くことになります。
ハローワークに相談すべきなのは、退職後に自己都合から、会社都合に変えてもらいたい場合です。自己都合か会社都合かで、失業保険の待機期間が変わってきます。
それ以上のパワハラに関する心理的な相談や、交渉に関する手続きについては、相談先としては適切ではないと思います。仮にその部分を相談したとしても他にあたってください、ということになる可能性が高いです。失業保険に関するもの以外のパワハラに対する具体的な相談については、社内窓口や労働基準監督署、労働局、弁護士にしましょう。
労働局
労働局は、労働基準監督署やハローワークが直接担当できない問題を担当する機関です。先ほどご紹介した労働基準監督署の上部組織になります。相談内容を聞いた上で、労働者と企業の間に入って、アドバイスや和解あっせんなどを行うことができます。国の機関ですので、このあっせんは無料です。
しかし、労働局は企業が話し合いに応じなかったり、話し合いに合意ができなかった場合に法的に何かを強制する権限は持っていません。また、パワハラに当たるかどうかを判定する権限も持っておらず、あくまで当事者同士の仲裁を行うのみです。
企業がパワハラがあったという事実を認めているものの、話し合いが平行線だから第三者を交えて話し合いたいという場合に労働局を活用しましょう。紛争調整委員が主張を整理し、適宜助言をくれるため、冷静に話し合いを進めることができます。
これに対し、企業がそもそもパワハラの事実を否定している場合には、弁護士への相談や労働審判など裁判所での手続きを検討した方がいいでしょう。
2020年4月から調停も可能に
今までは労働局ではあっせんしかできませんでしたが、2020年4月のパワハラ防止法の施行に伴い調停が可能となる予定です。
あっせんでは、当事者間の話し合いは行われますが、話がまとまらない場合に合意を強制することはできません。単純に双方の主張を整理するだけで、当事者間でまとめてください、というスタンスに近いです。事実をお互い認めているが、金額面だけ揉めていて顔を合わせると感情的になってしまうような場合には有効です。
これに対し調停では、調停委員会が作られ、関係者の出頭を求めることができます。また、調停案の作成をして、会社にその受諾を勧告することになるので、あっせんよりも強く解決へ導くことができます。
たとえば「この調停条項を作りましたので、会社はパワハラを認めて謝罪し、100万円を支払いなさい」というような調停案を会社に対して受け入れるように勧告を出すことができます。あっせんと比較すると、相手と揉めていて話し合いによる合意が難しいような場合でも、対応しやすくなるかと思います。
弁護士
パワハラを受けて、慰謝料を請求したい、また不当解雇されて解雇の無効を主張し賃金を請求したいなど、なんらかの権利を主張したい場合は弁護士に依頼することをおすすめします。
また、弁護士に依頼した場合、弁護士費用はかかりますが代理人として会社との間に入って交渉をしてくれるので、会社と単独で交渉することが不安であったり、会社から連絡が来るのが怖い場合には精神的な盾としてご活用いただけます。
労働基準監督署や労働局はあくまで中立という立場ですが、弁護士の場合は依頼を受けた側の味方として、裁判所での手続きなども利用して加害者や会社と戦ってくれます。社内外の相談窓口に行ったけどあまり取り合ってくれなかったという場合には、弁護士に依頼をした方が早いでしょう。
一方で、パワハラについて弁護士に相談や依頼をするのに適さない場合としては、証拠が全く無い場合や、辞めてから3年以上たって、時効となっている場合くらいかと思います。
このように、弁護士はパワハラの相談に幅広く対応することができるため、パワハラで困ったら、まずは弁護士に相談してみるのもひとつの手です。
パワハラを弁護士に依頼する際の弁護士費用
損害賠償の請求額が300万円までの場合は、着手金として請求額の8%、報酬として支払いが認定された額の16%程度のところが多いです。
今は廃止されていますが、弁護士費用の基準について定めた「日弁連旧報酬基準」というものがあり、今でもこれに基づいて弁護士費用を決めている事務所が多いです。
たとえば300万円を請求して100万円の支払いが認められたケースでは、着手金として請求額の8%の24万円+税金を依頼時に支払い、報酬金は支払いが認められた金額100万円の16%で16万円+税金になり、合計として40万円をお支払いいただくことになります。弁護士事務所ごとで違いますが、おおよそこのイメージで弁護士費用について計算してみると良いでしょう。
パワハラを相談する際のポイント
証拠を集めておく
パワハラについて相談する前に、パワハラを受けたことを証明できる証拠を集めておくことが大切です。証拠がないと、どの相談窓口としても動きにくいですし、取り合ってくれないことが考えられます。
証拠としては、暴言の録音や暴力を受けて怪我をした時の写真、病院の診断書、日記などが考えられます。どのような証拠が必要なのか、お持ちの証拠で十分なのかわからないという方は、弁護士に相談してみてください。
自分にとってのゴールを明確にしておく
「賠償金を得たい」「パワハラをなくしたい」「退職を自己都合から会社都合に変更したい」など、落としどころとして、どうするかを決めておくのも大切です。最終的なゴールとして賠償金を得たい場合には、しっかりお金をとっていく交渉の仕方になります。裁判も見据えて、弁護士に依頼をすることが望ましいかと思います。
会社からパワハラをなくしたい場合には、社内の相談窓口を利用することも多いですが、社内の内部通報システムが自身が所属する事業部などから距離があって相談するのに安心かどうか、きちんと機能している組織かどうか見定め、労働基準監督署や労働局に相談することも大事です。
退職したあとに、自己都合退職から会社都合退職に変更したい場合には、ハローワークに相談すること多いかと思います。このように、最終的な目標によって手段や相談先が大きく変わってくるので、自分にとってのゴールを予め明確にしておきましょう。
先生から一言
パワハラにあってしまうと、ショックからどのように対応するのが良いのか分からなくなったり、パワハラにあったときの記憶が一時的に無くなるということもあります。パワハラによって、追い込まれてしまう前に、是非弁護士に相談にいらしてください。
相談していただくだけでも、どのような証拠をどのように集めればよいかや、相談窓口や手続きの種類として何が適切かということをアドバイスすることも出来ます。
このように、裁判をするという時以外であっても、弁護士からアドバイスを受けるというだけで心強く感じる部分もあると思います。お困りの際は、是非お近くの弁護士に相談にいらしてください。