債権者破産するメリットは?費用や知っておくべき注意点を弁護士が解説
債権者破産とは、債権者が債務者の破産手続きの申立てをする場合のことを言います。破産事件の99.5%程度は自己破産のため、債権者破産はあまり一般的ではありませんが、債権者破産をすることで得られるメリットがいくつかあります。債権者破産をするメリットや注意点を知り、実際に行うかどうか検討しましょう。また、債権者破産を回避したい債務者の対処法もご紹介しています。

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債権者破産とは?
債権者が債務者の破産手続きの申立てをする場合を債権者破産といいます。
一般的には、破産は債務者本人や債務者の会社自身が申し立てる自己破産がほとんどで、破産事件の99.5%程度は自己破産です。
しかし、破産法18条には、債権者も破産申し立てることができる旨規定されています。
債権者が申し立てる場合の破産のことを債権者破産と呼んでいます。数や割合は少ないですが、一定数いるのも事実です。
債権者破産はどんな場合に行われる?どんな場合に検討した方が良い?
債権者破産を行うメリットがあるケースとは、どのようなものなのでしょうか?
債権者破産を行うメリットがあるケース(1) 不良債権の損金処理をしたい
債務者が破産をして、破産手続きの廃止決定や終結決定が出れば、回収不能の債権として損金処理をして経費にすることでその年の利益を圧縮できます。
ただ、現在ではいわゆるサービサーへの債権売却により損金処理をすることができるようになっているので、この点のメリットは小さくなっているでしょう。
債権者破産を行うメリットがあるケース(2) 強制執行の対象財産が分からない
裁判の判決など、債務名義を持っていれば、債務者の財産に対して強制執行できるという効力があります。
しかし、強制執行をするためには、債務者の財産を特定する必要があり、支払いをしない状態となっているような債務者の財産を見つけることは容易ではありません。
破産手続きにおいては、破産管財人が債務者の資産を全て調査することになりますので、把握できていない資産が判明する場合があり、配当できるくらいの資産があれば、一部でも債権を回収できる可能性があります。
破産手続きにおいては、破産管財人が債務者の資産・財務状況の調査を行いますが、債務者は破産管財人への説明義務、財産開示義務があります。これに違反すると、刑事罰の対象となって刑事責任を負う可能性がありますので、一定の資産調査の実効性が確保されています。
債権者破産を行うメリットがあるケース(3) 資産が散逸するおそれがある
債務を支払えなくなった債務者は、破産をする前に関係者名義へ資産を移転させたりするなど、資産を散逸させるおそれがある場合があります。
そこで、債権者が破産を申し立てて破産手続開始決定が出た後は、破産管財人が管理処分権を持ちますので、債務者自身が資産を処分することはできなくなります。
また、破産状態になった後の資産の散逸について、破産管財人が否認権を行使するなどして資産を元に戻すことができる場合があります。
また、破産を申し立てることにより、破産手続開始決定前であっても、一定の要件を満たせば、裁判所の保全処分により債務者の特定の資産の処分を禁止したり、保全管理命令により債務者の資産の管理処分権をはく奪し、保全管理人が管理保全を行うことができます。
これらにより、債務者の資産の散逸を防いで、破産手続きの中で債権回収ができる可能性があります。
債権者破産を行うメリットがあるケース(4) 新たな被害を出さない
債務者が債務を支払えなくなる状況になる場合として、刑事事件の被害や社会問題になるような被害を生むケースがまま見られます。
このような債務者の行為を放っておくと、今いる債権者だけでなく、以後も被害を生み続けてしまうおそれがある場合があります。
そのような場合には、破産を申し立てて、債務者の活動をストップすることで、新たな被害を生むのを防止する効果があります。
債権者破産が行われた事例
実際に債権者破産が行われた事例について、紹介します。
事例(1) 弁護士法人ミネルヴァ法律事務所
設立後の早い段階から、依頼者からの預り金を原資として別会社による広告宣伝を行っていたなど、その設立初期の頃から自転車操業状態であったと思われる事案で、弁護士会費を滞納していたことから、債権者である弁護士会から破産手続きを申し立てられ、破産手続きが継続しています。
このケースでは、負債額は50億円を超えるものと思われますが、破産管財人により10億円を超える資産を確保したようであり、債権額からは大幅に減ってしまうものの、債権者へは一定の配当を支払えることになりそうなケースです。
申立てをした債権者である弁護士会の意図は分かりませんが、債権回収に限らず、依頼者からの預り金を違法・不当に使っていた疑いがあることから、新たな被害を出さないように申し立てたという要素があると思われます。
事例(2) ジャパンライフ株式会社
これも大きく社会問題化した会社のケースですが、ベストなどの電磁商品をオーナーへ販売し、それをジャパンライフ社が預かってユーザーへ賃貸し、その賃料からオーナーへ毎月一定額を支払うという事業をしていたものの、オーナーへの支払額が、ユーザーから得る賃料を大きく上回る状況が続いていて、ジャパンライフ社に構造上利益が残らないような形で自転車操業状態だった事案で、オーナー債権者の弁護団によって破産申し立てが行われました。
破産申し立ては2018年2月に行われ、2021年6月現在でも手続中です。
負債総額2400億円超といわれる会社の破産であり、債権者への配当も行われるようですが、それでも配当額は債権額の1%未満と見込まれるとのことです。
これも、詐欺や出資法違反の問題があったことから、新たな被害を生まないために破産を申し立てたという要素がある事案です。
債権者破産を行う際の注意点
続いて、債権者破産を行う場合の注意点を解説します。
債権者破産を行う際の注意点(1) 債権の大部分は回収できない可能性が高い
破産は、債権者の債権回収をすることに目的があるわけではありません。
破産した債務者の資産を債権者の間で平等に分けて、代わりに債務者が個人であれば免責して債務の弁済義務をなくすかどうかを決め、債務者が法人であれば法人を消滅させる手続きです。
そのため、他に債権者がいれば、他の債権者と債務者の資産を分け合うことになります。
また、弁済をしない債権者には、債権者に分けるだけの資産がないこともあります。
個々の債権者の利益を確保するために破産があるわけではない以上、債権の大部分は回収できないと考えておいた方が良いです。
債権者破産を行う際の注意点(2) 債務者の資産・負債の状況を調査する必要がある
破産のうち、99.5%程度は、弁護士が代理人として申し立てる場合を含めて、破産する債務者自身が申立てを行っています(令和元年度司法統計)。
破産手続きを申立て、進めるにあたっては、資産・負債などについての情報が必要になりますが、債務者自身が申し立てる場合には、債務者がそれらの情報を把握していますし、把握していなくても債務者が調べれば把握できることがほとんどです。
しかし、債権者破産の場合には、債務者が協力しなければ、申立て段階で債権者の方で資産・負債の状況などについて把握して裁判所に示す必要がありますが、それは容易ではありません。
例えば、判決などの債務名義を取得した上で財産開示の申立てをしたり、債務者所有の不動産の抵当権の内容を調査するなどして、支払能力がないことや債務超過である事情を裁判所に認めてもらう必要があります。
債権者破産を行う際の注意点(3) 手続きに時間がかかる
破産債務者の資産・負債の状況や、なぜ債務者に破産が必要なのかといった事情などについて、裁判所から事情を聞かれることになります。
また、債権者が債務者の破産を申し立てられるといっても、破産するのは債務者自身なので、債務者の意見を聞く債務者審尋も行われます。
債務者からは、破産する意思がなければ、破産する必要がないなどといった反論が出ることが予想され、破産手続開始決定が出るまでにも時間を要する場合があります。
また、破産手続きが進むことになったとしても、もともと破産する意思のない債務者がどこまで手続きに協力するかは分かりません。
債務者自身が申し立てる場合には、事前にある程度準備をした上で申立てをすることができますが、債権者破産では、申立て段階で明らかになる事情は少ないことが多く、債務者自身が申し立てる破産手続きよりも長期間がかかります。
資産や負債、破産に至る経緯などの確認ができなければ、手続きがスムーズに進まず、さらに長期間かかってしまうことになります。
債権者破産を行う際の注意点(4) 予納金など債権者が負担する費用が高額
債権者破産では、裁判所へ納める申立費用は申立債権者が負担しなければなりません。
申立費用の中でも、破産管財人の報酬に充てられる予納金は高額で、各裁判所によって異なりますが、負債総額が5000万円未満と見込まれる場合でも、債務者が法人で70万円~100万円以上、債務者が個人で50万円~70万円以上といった費用がかかります。
この金額は、負債の総額や債権者の数、事案の内容によって増減することがあります。
これらの費用は、一応は破産管財人報酬に次いで債権者の共同の利益のための費用として優先して弁済を受けられますが、債務者に資産がなければ回収不能になるリスクがあります。
債権者破産に必要となる手続き
債権者が債務者の破産を申し立てようとする場合、基本的に、債務者が法人であれば本店所在地、個人であれば住所地を管轄する地方裁判所に申立てをする必要があります。
申立ては、申立書の他、債権者であることが分かる資料、債務者に支払能力がないことまたは債務超過であることを示す資料などを提出することになります。
債権者破産に必要となる費用
費用については、各裁判所によって異なる場合が多いです。
例えば、東京地裁の場合は、令和元年10月1日に公表された資料によれば、以下の費用が必要になります。郵便切手と予納金は、各裁判所によって異なります。
弁護士を代理人とする場合には、これとは別に弁護士費用がかかります。
- 収入印紙 2万円(全国共通)
- 郵便切手 6000円
- 予納金 以下のとおり
負債総額(円) | 法人(円) | 個人(円) |
〜5000万未満 | 70万 | 50万 |
5000万〜1億未満 | 100万 | 80万 |
1億〜5億未満 | 200万 | 150万 |
5億〜10億未満 | 300万 | 250万 |
10億〜50億未満 | 400万 | |
50億〜100億未満 | 500万 | |
100億〜 | 700万 |
債権者破産を検討しているなら弁護士へ相談
債権者破産のためには、上記のとおり、申立段階から、債務者が支払能力がないことまたは債務超過であることなどを示す必要がありますが、債権者がそれらを示す資料を持っていることはあまり考えられません。
そこで、債務名義を取得し、強制執行をしたり財産開示の申立てをしたり、各種調査をして債務者の資産や負債の状況に関する資料を集める必要があり、各種の裁判手続きや弁護士会照会などでの調査が必要になってきます。
これらの調査を債権者自身が行うのは通常難しいと考えられますので、弁護士に相談してみることをお勧めします。
債権者破産を回避したい債務者の方が取れる対処法
債権者破産を回避したい債務者の方は、下記のような対処法を取ることができます。
(1)債務者審尋で破産の必要がないことを主張立証
債権者破産では、破産開始決定前の段階で、債務者にも主張する機会が与えられます。
その中で、支払能力があることや債務超過ではないことなど、破産する必要がないことを主張し、債権者の疎明を防ぐことができれば、裁判所は破産を開始することができません。
(2)即時抗告
債権者と債務者双方の言い分を聞いた結果、裁判所が破産手続開始決定を出したとしても、その決定に対して即時抗告という不服を申し立てる手段があります。
不服申立手続きの中で、新しい証拠を出したり、説明が不十分だった箇所を補充するなどして破産の必要がないことを主張できます。
(3)申立債権者と交渉
申立債権者が債権回収のために破産の申立てをしたのであれば、その債権者と交渉し、債務の支払い等を申し出ることにより、破産の申立てを取り下げてくれる可能性があります。
ただし、破産手続開始決定後は、申立債権者も取下げをすることはできなくなりますので注意が必要です。
(4)再生手続の申立て
債権者破産の申立てに対抗して、債務者側から再生手続きの申立てをすることが考えられます。
民事再生は、裁判所を通じて債務を減額して、分割払いをすることで立て直しを図るものです。
会社であれば、営業利益は出ているなど経営自体が良好であれば認められる可能性はあります。
個人であれば、安定した収入があるなどの事情があれば認められる可能性があります。
ただ、最終的には一定割合の債権者の同意などが必要になります。
会社であれば、破産すれば消滅してしまうのに対し、再生であれば会社は存続しますので、これは大きな違いです。
(5)弁護士への相談
これらいずれの対処法を取るにしても、資料の収集、取捨選択、対債権者の応対、法的手続きなど、専門知識が必要だったり、代理人として間に入った方が良い場面が多い状態といえます。
そのため、債務者として債権者破産を防ごうと思ったときは、弁護士への相談が欠かせないものと思います。