残業月100時間はなぜ違法なのか?健康にどんな影響が出るのか?

長時間労働は労働者の健康と安全に関わる社会問題です。しかし職種によっては残業時間を減らすことが難しく中には月100時間以上の残業が当たり前になっているケースもあります。
こちらの記事では月100時間も残業することはそもそも法に触れないのか?過重労働に対してどう対処していけるかを紹介します。
・月100時間以上の残業は違法の可能性があります
・月100時間の残業は体調に悪影響を及ぼすかもしれません。
・弁護士の力が必要となるのは残業代と慰謝料請求と考えられます。
残業100時間以上が違法だとして何の法律に触れるのか?
毎日残業続きで毎月100時間以上の残業が当たり前という人もいます。業務時間以外に拘束される時間も残業と考えたらもっと長い時間になるかもしれません。
Vorkersが68853人の利用者データを集計した結果、100時間以上の残業をしている労働者は全体の12.9%だとわかりました。労働基準法においては残業時間上限が原則月45時間となっているわけですから、長時間労働は根深い問題と言えるでしょう。(参考:https://www.vorkers.com/hatarakigai/vol_4#ranking1)
そして長時間労働は時に違法となります。こちらでは月100時間を超える残業がどの法律に基づいて違法になりかねないのかを紹介します。
実は実質無制限だった労働時間の上限
これまで残業代の上限を決めるルールとしては、労働基準法第36条4項がありました。こちらは時間外労働は原則として月45時間以内、年360時間以内と定められ同法にて定められた労使協定(通称36協定)でもこの上限時間が採用されるのが一般的です。
しかしこの上限は特別条項において延長でき、しかも延長しても法律違反に応じた実質的な罰則がない状態でした。
働き方改革関連法により月100時間を超える残業が違法になった
2019年4月より働き方改革関連法が施行されました。これは長時間労働の慢性化や、賃金格差などさまざまな問題に対応するためのもので、具体的には各種法律の改正です。
その中で、残業時間に関わる法律である労働基準法も改正されました。
改正された労働基準法第36条の第5項では先に挙げた36協定の特別条項について以下の規制を設けています。
- 毎月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満
- 1年の残業時間の合計が720時間未満
- 2〜6ヶ月の労働時間を平均したとき、どこで計算しても月80時間を超えない
- 少なくとも年6ヶ月は月45時間の残業時間が上限となる
さらに労働基準法第36条6項によって途中で転職があった場合にも企業は残業時間月100時間未満と2〜6ヶ月でとった残業時間の月平均80時間未満という決まりを守らなくてはいけません。
上限を超えた残業をさせた企業は罰則を受けるようになった
働き方改革関連法により残業時間に関わる条文が改正されたことによって、残業時間の上限を超えて働かせた企業は労働基準法違反の罰則を受けるようになりました。6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金とはいえ使用者に対する抑止力となることが期待されます。
100時間以上の残業が続けば健康にも悪影響が出やすくなる
長時間労働は労働者の心身に対してストレスとなります。労災認定においても長時間労働による心身の疾患は認められる可能性があり厚生労働省は以下を過労死ラインと明示しています。
- 直近1ヶ月の残業時間が100時間を超えている
- 2〜6ヶ月間の残業時間が月平均80時間を超えている
この過労死ラインは命に関わりやすい脳疾患と心疾患のリスクの基準ですが、そのほかうつ病や統合失調症といった精神疾患においても長時間労働との因果関係が認められたケースはあります。
いま、心身に不調を抱えていませんか?
月100時間や月120時間の残業が当たり前になっている場合、自覚が少なくても既に何らかの心身不調が出ているかもしれません。このような状況に思い当たるな休む時間を作ることが必要です。
- 昼間の眠気、不眠
- 疲労が回復しない
- 頭痛・めまい
- 常に緊張している
- 憂鬱で周りに興味を持てない
- 周りに対して攻撃的になった
- ミスが増えた
まだ耐えられるからと放置するのではなく、大きな症状に発展する前の備えが求められます。もちろん労働者の健康を守ることは企業の安全配慮義務でもあります。
残業100時間に耐えられない時に考えるべきこと
100時間を超える残業が続いていて、もう耐えられないという場合に考えるべきことを紹介します。長時間労働の影響は人によりますが、長時間労働は働くための前提ではありません。それだけは覚えておいてください。
労基署に相談する
労働問題を相談する機関として労働基準監督署があります。労働基準監督署は労働問題についてアドバイスをくれ、場合によっては企業に立ち入り是正勧告をしてくれるかもしれません。
ただし、必ずしも調査を約束できないことや罰則を与えたところで民事のトラブル前は解決できないこと、そして違法と言えるレベルの長時間残業を強いている証拠を提出しなければいけないことに注意が必要です。
労災申請をする
長時間労働による心身のトラブルが労災にあたると思われる場合は、労災申請をしましょう。労災認定がされれば保険給付を受けられます。また、労災申請をする前には診断書が必要となりますが労災指定病院または労災病院で治療を受ければその場はお金の支払いが不要です。(ただし、労災認定されなかった場合は後払いとなります)
企業によっては労災申請を嫌う場合もありますが、労災隠しは労働安全衛生法に第100条に違反する行為です。企業は同法120条に基づき罰則を受けます。
ただし、労災申請をしても、後から治療費等のお金が支払われるだけです。(しかも、必ずしも十分とは言い難い金額です・・・)失われた健康が回復される訳ではありません。そのため、事後的に労災申請をすることより、健康被害にあわないよう違法な長時間労働のリスクを避ける方法を検討すべきです。
メンタルカウンセリングを受ける
明確に精神疾患が認められた場合でなくとも、メンタルカウンセリングを受けることで気持ちが楽になったり冷静に物事を考えられるようになったりします。単純に長時間労働が辛いという問題であれば心の健康を取り戻すことから始めてみましょう。
「こころの耳電話相談」で無料相談することも一つの手段です。(https://kokoro.mhlw.go.jp/tel-soudan/)
ただし、こちらは精神疾患の治療をすることはできません。
転職する
働けない時は無理せず休むことを検討してください。休職をしてもその後の改善が期待できない場合は転職も考えるべきです。転職をする場合は今の会社から長時間残業になりそうな要因を考え、その要因が少ない職場を選ぶことが望ましいです。
また、業種によっても残業時間の多い少ないという傾向が見られます。したがって残業時間を減らしたいならキャリアチェンジを考えることが良いかもしれません。
月100時間残業が違法だとして何を訴えられるの?
- 月100時間を超える残業は違法
- 長時間労働の職場に続けると健康面でのデメリットが考えられる
- 残業時間を減らしたいなら外部への相談や転職を検討すべき
ところで、月100時間を超える残業が違法かつ危険だとして使用者に何を訴えられるのでしょうか?
未払いの残業代請求
残業時間がこれだけ多いと、支払うべき残業代もそれだけ多くなります。基本給と別に労働時間に応じて支払われる割増賃金は時間外手当、深夜手当、休日手当の3つがあり、それらが場合によっては複合します。
- 時間外手当(8時間を超えて働いた):基本給の25%
- 深夜手当(22時から0時、0時から5時に働いた):基本給の25%
- 休日手当(法定休日に働いた):基本給の35%
当然、残業した分は基本給が発生します。
例えば月給36万円の完全週休2日制で毎日8時間労働であった場合、残業100時間したと考えれば残業代が以下のようになります。
まず、36万÷160時間=2000円が残業代の基礎となる時給です。
そして2000円の時給で100時間働き、そこに25%の割増賃金がつくわけですから。単純に100時間働いた場合の残業代は
2000×100×1.25=25万円となります。つまり基本給と時間外手当だけで時間外手当だけで25+36=61万円となります。
さらに100時間残業ということは毎日平均して5時間残業していることになります。ということは毎日9時から働き休憩1時間と仮定した場合、23時帰社ということになります。
つまり毎日1時間の深夜割増2000×20×0.25=1万円が加算されるので、この例における基本給+残業代の合計は62万円となります。もちろんこれ以上に残業をしている場合はさらに残業代が加算されます。
どうでしょう?基本給の差はあるかもしれませんがこれだけの残業代、払われていますか?それともサービス残業を強要されていますか?100時間残業した人は100時間分の残業代を得られなければ割に合いません。労働の対価ですから残業代が未払いであれば遠慮なく請求しましょう。
残業代は証拠集めが必要
残業代請求をするためには、残業した事実を証明しなければいけません。タイムカードや業務日報など実際に働いた時間が記録された証拠を集めましょう。直接的な証拠がない場合は間接的な証拠として何が使えるか、弁護士に相談することをお勧めします。労働問題に明るい弁護士であれば様々な角度から残業の事実を立証するための手がかりを考えてくれるでしょう。
また、年俸制や固定残業代、管理監督者制度は残業代の支払いを回避できる制度ではありません。もし仮に契約で残業代の上限が決められている場合でも労働基準法に基づく残業代請求が可能です。(このようなルールを強行法規といいます。)
残業代請求の時効は3年
残業代請求の時効は3年です。つまりどれだけの時間働いても3年より前の残業代は請求できなくなりますから、残業代の未払いに気づいたら早めに弁護士へ相談しましょう。法律の専門に委任することで迅速かつ丁寧な残業代請求が可能になります。
安全配慮義務違反の慰謝料
長時間労働のせいで心身に不調を及ぼした場合、使用者に慰謝料請求ができる場合があります。通常の損害賠償で訴えることも可能ですが、時効が長い安全配慮義務違反の主張をすることが基本となります。ちなみに、安全配慮義務とは使用者が労働者の安全のために必要な手を講じる義務です。
残業を減らすために手を尽くさなかった、心身が不調であると知りながら放置した、休職や有給を認めなかったなど理由は様々ですが、大事なのは長時間労働と傷病の因果関係です。
その立証が難しい時も弁護士への相談がお勧めです。
他の労働問題があるかもしれない
長時間労働の中にいる労働者はストレスがかかりやすいため、残業代の未払い以外にパワハラやセクハラの問題が起きることも考えられます。あなたが当たり前と諦めていたことの中に、違法なものがあるかもしれません。
まとめ
月100時間を超える残業は働き方改革法によって違法となり、違反した使用者が罰せられるようになりました。しかし使用者が罰せらるとしても残業代や慰謝料その他損害賠償の請求といった民事紛争はあなた自身が進めなくてはいけません。
もし長時間労働にも関わらず、残業代が出ないとお困りなら弁護士へ相談しましょう。弁護士は依頼者の手続きを代理人として行うことができます。