公正証書遺言の作り方、効力、相続時対応をまとめて解説
公証役場の公証人が関与して、公正証書の形で残す遺言書である、公正証書遺言。法律の専門家のもと、遺言書を作成するので遺言内容の確実性があり、遺言の効果も無効になることが少ないのが特徴です。
今回は、公正証書遺言の作り方、効力とあわせて相続時の対応をまとめて解説します。

・公正証書遺言は安全性・確実性が高い
・公正証書遺言は原則、公証役場で作成する
・相続開始時は、公正証書遺言の確認から
なぜ、遺言を公正証書で作るのか
通常、遺言書は、3種類に分類できます。1つは、法律の専門家である公証人が作成し、公証人役場で保管される「公正証書遺言」。もう1つは、被相続人が自筆で作成し、自身で保管する「自筆証書遺言」です。他に、(実務上はほとんど利用されていないですが)内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で認証してもらえる「秘密証書遺言」もあります。
なぜ、遺言を公正証書で作るべきなのか、公正証書遺言のメリットを紹介します。
公正証書のメリット
遺言書を公正証書にするメリットは以下の通りです。
- 法律の専門家である公証人が作成するので、法律の観点から見ても、安全性・確実性が高い
- 公証人が作成するので、病気や事故で文字が書けない方も、自分の意思を口頭で伝えられる
- 病気や事故で体が動かせない方のもとへ、公証人の出張が可能
- 自筆証書遺言のように、家庭裁判所での検認は不要
- 公証役場で遺言書が保管されるため、第三者による内容の改ざん・隠匿・破棄のリスクがない
- データによる二重保存システムが構築されているため、天災による原本の滅失があっても遺言書の復元が可能
- 平成元年以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会でデータ管理しているため、全国の公証役場から遺言書の有無が検索できる
このように、自筆証書遺言よりも安全性・確実性の面や自分の意思が明確に表現される公正証書遺言はメリットが多いといえます。
自筆証書遺言のルールは改正されたが…
自筆証書遺言のルールは改正され、遺言者にとって作成しやすいようにはなっています。例えば2019年1月13日には、署名、押印は必要ですが、財産目録は相続人の代筆やパソコンでの作成が認められるようになりました。
さらに、2020年7月10日には、遺言書を法務局で保管できるようになるなど、ルールが改正されました。しかしながら、遺言書の記載内容については、法律の観点から見て安全性・確実性が低いといえるでしょう。また、遺言書を作成した方が年配の場合、「認知症を発症している」と相続人に主張され、争族に発展するおそれがあります。
このような点から不安であれば公正証書遺言を選ぶこと、また、自筆証書遺言を作成する場合でも弁護士の力を借りることを強くお勧めします。
公正証書遺言の作成手順
ここでは、「公正証書遺言を残したいけれども、作成方法が分からない」方向けに、公正証書遺言の作成手順を紹介します。
遺言作成前の準備をする
公正証書を作成する前に、自分の資産は何があるのか、誰に何を相続させるのかをメモなどに書き留めておきます(遺言書の原案)。また、公正証書遺言を作成する際、以下の書類が必要です。
- 遺言を残す方自身の印鑑証明書
- 遺言を残す方と相続人の続柄がわかる本籍記載の戸籍謄本と住民票
- 相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票など氏名、住所、生年月日のわかるもの
- 不動産の贈与がある場合、その登記事項証明書・固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
- 不動産以外の相続財産がわかるメモや資料
- 遺言を残す方が証人を用意される場合、証人を特定できる名前、住所、生年月日、職業の載った資料
- 遺言執行者を指定する場合、遺言執行者を特定できる名前、住所、生年月日、職業の載った資料
遺言の内容によっては、追加書類が必要になることもあるので、公証人と打ち合わせをしながら、都度、確認してください。また、印鑑証明書や住民票、登記事項証明書はお住まいの市区町村役場で申請できます。
これらの書類は、3か月以内に発行したものを用意しましょう。そして忘れてはいけないのが証人の確保です。公正証書遺言を作成する際は、2人以上の証人が必要になります。信頼のおける人に依頼しましょう。
もし、証人が見つからない場合は弁護士などの法律の専門家に依頼してください。
公証役場へ申請する
遺言書の原案・書類・証人の準備ができたら、公証役場へ公正証書遺言を作成する旨を申請します。その際、上記で用意した遺言書の原案・書類を提出しましょう。内容に不備がなければ、公正証書遺言作成日の予約が可能になります。
公証人と打ち合わせを行う
公証役場に提出した書類をもとに、公証人と打合せを行います。このとき、遺言書の原案の文言を整え、法的に問題ないものに仕上げていきます。公証人との打ち合わせでできた公正証書遺言の案で、遺言を残す方の意向とそぐわないものがあれば、この時点で修正が可能です。
公正証書遺言の作成
公証人と打合せを行い、公正証書遺言の案が固まれば、遺言を残す方、証人2人と公証役場に向かい、公正証書遺言の作成を進めます。このとき、公証人手数料が発生するため、現金で支払いましょう。
万が一、病気やケガなどで公証役場へ行けないときは、事前に、公証役場に連絡しましょう。
公正証書遺言作成の注意点
公証人と打ち合わせを行いながら作成する公正証書遺言には注意点がいくつかあります。注意点は以下の通りです。
費用がかかります
そこまで高額ではありませんが、公正証書遺言作成には手数料がかかります。遺産の総額に応じて費用も上がっていきますが、これは各相続人ごとに計算されます。つまり相続人の数だけ公正証書遺言の手数料が計算されます。
公証人は遺言者の味方ではない
公正証書遺言は、遺言の有効性という面において安全性が高いです。ただ、あくまでも公証人は遺言者の意思を反映することが役割で、遺言の内容は遺言者自ら考えなければいけません。
したがって、独力で遺言の内容を考えたりすることが難しい場合は公正証書遺言を選択する場合でも弁護士の力を借りる方が賢明でしょう。
このようなケースは無効になります
- 公証人抜きで作成された遺言書
- 証人になれない人が立ち会った遺言書
- 公証人へ口伝えに告げずに身振り手振りなどで伝えて作成した遺言書
- 証人がいないときに作成した遺言書
- 遺言を残す方が、認知症やアルツハイマーで判断能力が無い状態で作成された遺言書
これらの注意点を把握できていないと、遺言の効果が強い公正証書遺言であっても無効になってしまうケースもあるので気を付けましょう。
相続開始時、どのように公正証書遺言の対応をすれば良い?
相続開始時、公正証書遺言の有無でその後の手続きが大きく変わっていきます。そのため、両親や配偶者が亡くなった際は、公正証書遺言を遺しているかどうかを調べる必要があるでしょう。
公正証書遺言のメリットでお伝えしましたが平成元年以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会でデータ管理しています。ですので、全国の公証役場から遺言書の有無が検索可能です。
公正証書遺言の有無が確認できるのは、相続人かその代理人に限られます。そのため、以下の書類を持って、公証役場に行きましょう。
- 被相続人死亡の記載がある戸籍謄本や除籍謄本
- 自分が相続人であることを証明できる戸籍謄本
- 免許証などの写真付き身分証明書
- 印鑑
戸籍謄本や除籍謄本は、3か月以内に発行したものに限ります。また、公証役場は予約が必須です。事前に連絡してください。万が一、遺産分割後に公正証書遺言を見つけた場合、弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
公正証書遺言は公証人が遺言を作成しますが、その内容について細かく具体的なアドバイスを必ずもらえるとは限りません。遺言によって起こる問題に事前に対処しておきたいなら弁護士と一緒に相続対策をすることがおすすめです。