【初歩から解説!】契約書の作成と注意点
取引や雇用で必要になる契約書、契約が増えるほど契約書も増えていくものですが「1から作るのが面倒だからテンプレート(雛型)を使ってしまおう」という気持ちはよく分かります。
しかし契約書には条項の表現や単語一つで大きなトラブルに発展するリスクが潜んでいます。細部までチェックすることを怠らないでください。

契約書とは?
契約とは、2人以上の当事者間で申込と承諾の相対する意思表示の合致で成立する、法的な権利や義務が発生する行為をいいます。この契約内容を記載した書面が契約書になります。
契約当事者の意思の合致により、契約内容は公の秩序や強行法規に反しない限り自由に決めることができます。これを契約自由の原則と言い、民法の基本原則とされています。
2020年4月1日に施行された民法改正では、この基本原則が初めて条文化されました(民法第521条)。
契約自由の原則は、締結の自由、内容決定の自由、相手方選択の自由、方式の自由、を内容とします。したがって契約は口頭のみでも成立するので、契約書の作成は義務づけられているものではありません。
では、契約書の作成がなぜ必要になるのかについて、以下に解説します。
契約書とは権利義務の合意を明文化した書類
契約書が必要な理由は、当事者間の権利義務の内容を明確にして契約履行の指針を明示し、紛争になったときに契約書を証拠にできるためです。
反対に、契約書がなければ契約内容が不明確になって紛争のリスクが高くなり、また紛争になったときに立証が難しくなります。
ビジネスにおいては契約書がないと、契約の存在自体や内容が不明確となりトラブルの原因となるのは明らかです。
また、近年ではコンプライアンス意識の高まりから、契約書を厳格に作成することが重要視されています。契約書のない会社はコンプライアンス意識が低いとみなされ、取引先や消費者からの信用を失うことになってしまう場合もあるため、充分な注意が必要となるでしょう。
口約束も可能だが、書面に残すことが強く推奨される
上述のように、契約自由の原則により、契約は契約書がなくても成立するので、口約束だけでも契約は有効です。
しかし、契約書がないと後々の契約内容の詳細、例えば、売買契約であれば、売買の対象、金額、引き渡し場所などの確認がとれなくなります。
詳細事項を記載した契約書を作成しておけば、契約書に基づいて契約内容を履行することができ、取引もスムーズに行なえます。
また、契約を履行しないことで損害が生じた場合にどのような処理をするのか契約書にまとめて合意を得ることで、法的拘束力を持たせることも可能になります。
契約に関するトラブルを未然に防ぐためにも、またトラブルが生じたときの対応を明確にしておくためにも、当事者双方が契約書を作成して双方の合意を書面化しておくことが重要になるのです。
契約と法律、どちらが優先する?
契約自由の原則が民法の基本原則であることから、契約は基本的に民法をはじめとする法律の規定に優先します。
しかし、全ての契約が優先されるわけではないので注意が必要です。公序良俗に関する法律や強行法規については、契約よりも法律が優先されます。
公序良俗とは、社会の一般的秩序を維持するために要請される倫理規範です。例えば、殺人契約や人身売買契約などは、無効とされます。
強行法規とは、契約によっても変更を認められていない法規をいい、主に以下の3種類があります。
①各種業法など公的な規制が必要であるもの:医師法、建設工事請負法など
②弱者保護の観点から法制化されているもの:労働基準法、借地借家法、消費者契約法など
③手続きや権利内容が法制化されているもの:会社法、各種登記法、知的財産法など
したがって、原則的には契約が法律に優先しますが、公序良俗あるいは強行法規違反の契約は、契約自体が無効になります。
なお、例えば、労働基準法の第13条では「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。」とあり、労働基準の最低ラインに関する条項が強行法規であることが分かります。
一方、このように強行法規であることが明確に規定されていない場合も多くあり、強行法規かどうか区別するためには、判例や学説等を調べなければ分からないこともあります。
契約書の作成方法
契約書の作成方法については、法律上のルールはありませんが、契約書に記載すべき内容や基本的な構成、形式などはある程度決まっています。
一般的な契約書では、表題、前文、本文、後文、契約日、署名押印、が必要です。
契約日を明確にする
いつ契約が締結され、また、いつ契約書が作成されたのか、契約日の記載は消滅時効などが問題となった場合に重要になります。
ただし、契約は当事者の意思表示が合致することで成立し、契約成立時から契約の効力が発生します。
したがって、契約日の記載は契約書の作成日を意味するもので、契約の成立日や契約の効力発生日と必ずしも一致するものではないことに注意が必要です。
とはいえ、一般的には契約書の作成日をもって、契約の成立日または契約の効力発生日とみなします。もしも、これと異なる場合にはその旨を明記しておくことが必要です。
契約日の記載がなくても契約自体は有効ですが、契約の履行や解釈、また消滅時効の起算日でも問題になるので必ず明記するようにしましょう。
何の契約か明確にする
契約書には表題をつけて文書の冒頭に表示します。 表題とは、「雇用契約書」「売買契約書」「賃貸借契約書」などのように契約書のタイトルをいいます。
契約書の表題は、契約の内容を端的に表現するものであることが原則です。何の契約書であるのか不明確であっても、契約書自体が無効になることはありませんが、その後のトラブルのもとになることは明白です。
契約書は後々にトラブルに発展したときの証拠ともなるものですので、タイトルを含め簡潔明白に表記することが重要です。
誰と誰の契約なのか明確にする
契約書の前文には、契約書の当事者、契約の目的、日付などを端的に表記します。
例えば、株式会社〇〇〇(以下「甲」という)と株式会社〇〇〇(以下「乙」という)は、以下のとおり売買契約を締結する、というように契約当事者と取引の内容が簡単にわかる内容を記載します。
前文は、誰と誰の間に、何のために作成されるのかなど取引の内容を簡単かつ明白に表示するもので、事務手続き上の便宜を図る上でも重要です。
権利義務が客観的にわかるように書く
契約書の本文においては、契約の条件など具体的な契約内容を記載します。
契約の条件では、いつ、だれが(だれに)、どこで、何を、なぜ、どのように、いくらで(どれくらい)、という5W2Hの原則を参考にして条件を記載すると良いです。
必ずしもこの全てを網羅する必要はありませんが、例えば、売買契約書であれば、納品期日、引渡し場所、商品名、引渡し方法、数量、価格、支払い条件など取引の詳細事項を記載します。
契約書の本文を記載する場合には、契約当事者の権利と義務がどのようなものか誰が読んでもわかるように意識しながら作成することが重要です。
特に権利と義務の内容を適切な文言で表現しないと、いざその内容を履行しようとしても適切に履行できない場合があります。
たとえば、条項の中に「~するように務めるものとする」という表現があれば、努力すればよいだけで履行義務を強制するものではありません。
また、契約が履行されず取引がこじれて訴訟に発展した場合には、契約の証拠である契約書を解釈するのは第三者である裁判官です。業界特有の表現などを使うと、その表現が意味するものから立証する必要が出てきますので、そのような表現は極力避け、だれもが解釈できる表現で契約書を記載することが重要になります。
リスクヘッジを忘れない
契約書の本文では、法律上の条件についても記載が必要です。
例えば、契約の解除条件、契約に違反した場合の損害賠償、訴訟になる場合の管轄裁判所など、将来トラブルが生じた場合に備えての条件を記載します。
上述のように、何らかのトラブルが生じて訴訟にまで発展したとき、契約書はトラブル解決のための証拠にもなるものです。
したがって、生じ得るトラブルを想定した上で、その解決方法を明示しておくことが必要です。
お互いに正本を持っておく
契約書の後文では、契約書が何通作成されて、誰が何を所持するのか、といった条件を記載します。契約のトラブルが生じた場合に、契約書の所持人を明確にしておく必要があるからです。
例えば、「本契約締結を証するために、本契約書を2通作成し、甲と乙が各自1通づつ保持する」といったように記載しておけば、裁判になった場合でも契約書の所在がわかりやすいでしょう。
契約書の最後に、契約締結日(前文に入れる場合もあります)、前文に記載された契約当事者の署名捺印または記名押印をします。
当事者が法人である場合は、各社の代表取締役が署名捺印または記名押印します。
また、最近では電子契約サービスが普及していますので、そういったサービスを利用する場合には、電子署名などサービスの中で必要な処理をすることになります。
電子契約では、署名捺印または記名押印がなされているわけではありませんが、裁判でも証拠として使うことができます。
契約トラブルを防ぐための注意点
契約書を作成する場合には、将来のトラブルを防ぐために以下の点に注意しましょう。
書式不備がないよう徹底的に確認する
まず、書式の不備について確認すべき事項は、以下の通りです。
・誤字脱字がないか、当事者の名前や名称、住所などは特に注意する
・言葉を省略していないか
・曖昧な解釈になる表現は無いか
・法律用語は正しく表記されているか
・契約の内容が実現できる内容であるか
・期間の定めが実現できるものか
・契約内容に一貫性があるか
・公序良俗に違反する事項は無いか
・契約全体のバランスはよいか
契約書は当事者間の法的な権利義務を規定する重要な書類です。しかし、名称の記載が間違っていたために無効になってしまったり、契約条項の一文の記載が不明瞭であるために訴訟に発展するケースもしばしば見受けられます。
不備のある契約書は将来的に深刻な問題に発展することになるので、事前のチェックが特に重要になります。
契約締結後をよく想像しながら作成する
契約書の作成にあたっては、契約内容が取引の実態に即した内容であることが重要になります。どんなに詳細な条件を条項に記載しても、その業界特有の事情にそぐわないものであれば、契約の履行も当然に困難になります。
また、取引先とのトラブルはよくあることですが、トラブルが交渉によって解決できる範囲を超えて訴訟に発展してしまった場合、訴訟の勝敗を決定する重要な証拠となるのが契約書です。
契約書を作成して内容をチェックする場合には、その表現一つが将来の紛争の結果を左右するものであることを意識しながら、細心の注意を払うことが重要になります。
テンプレートや電子契約の利用について
契約書の作成する際には、テンプレートの利用が可能です。インターネットで無料・有料のテンプレートを入手できるので、これらを利用すればミスを削減して効率よく契約書を作成できます。
中でも監督官庁や弁護士事務所から出されているテンプレートは、品質や信頼性が高いものが多いので利用する価値も高いでしょう。
また、電子契約サービスも有料・無料のものがあるので利用が可能です。電子契約とは、電子データによって作成・保管する契約です。紙に印刷せずにネット上で管理することができます。電子契約も要件を満たせば、法的に有効です。電子契約サービスの中にも、契約書のテンプレートが用意されているものがあります。
こうしたテンプレートの使用に当たっては、契約内容がテンプレートにそぐわ無い場合も多々あるので、その都度の修正が不可欠です。
雛型を使う場合もリーガルチェックを忘れずに
契約の作成にテンプレートを使用した場合、以下の問題点が発生しやすくなります。
・テンプレートをそのまま使用したことで、履行できない契約内容が発生してしまい、相手から契約不履行で訴えられる
・ テンプレートをそのまま使用したことで、実際の取引内容と異なる契約内容が発生して会社に損害を与えてしまう
テンプレートの使用は便利で時間短縮にもつながるのですが、将来のトラブルも想定されるため、あくまでも参考程度に留め取引の内容に応じた事前のリーガルチェックが必要です。
電子契約なら対面交渉も郵送もいらない?
電子契約は、PDFなどの電子データによって作成する契約書で、契約の締結から保管まですべてインターネット上で完結できます。したがって、紙面の契約書で必要であった対面交渉や契約書の郵送もいりません。
電子契約のメリットは、契約業務の効率化を図り、コストの削減、さらにはコンプライアンスの強化が挙げられます。
電子契約システムを導入する場合には、自社に必要な機能は揃っているのか、セキュリティ対策は万全であるのか、など総合的な判断を行い検討することが重要です。
まとめ
今はテンプレートや電子契約によって契約というものがどんどん便利になっています。だからこそ契約書に不備はないかしっかり確認することが大切です。本当に自社の都合に合ったものであるか?そのまま条文を流用して良いのか?契約の手続きに問題はないか?そのような不安を減らすためにもリーガルチェックは欠かさずに行いましょう。