慰謝料・養育費を債務整理できる場合がある?判断基準と手続き方法を解説
離婚の慰謝料は時に数百万円にも及び、分割払いでも支払えないことがあります。その時に「慰謝料や養育費は自己破産できるのだろうか?」と考える気持ちはよくわかります。この記事では、そもそも慰謝料や養育費は債務整理で減額することができるのか?仮に減額できるならどのような手順で行えば良いのかを弁護士の伊奈さやか先生に解説していただきます。

慰謝料や養育費は債務整理で減額できる?
離婚時に慰謝料や養育費の支払義務を負ったのに、支払えない状況になった場合に、債務整理で減額できれば楽になりますよね。そのようなことが可能なのか、以下に検討していきます。
慰謝料が債務整理される場合とされない場合
債務整理には、任意整理(交渉)、破産、個人再生と大きく3つに分けられます。
さらに詳しいことは別に記載しますが、いずれの方法でも債務整理が可能なことが原則です。
ただし、一定の場合には債務整理できない場合もあります。
養育費はなぜ債務整理できないのか?
養育費については、債務整理のうち、破産手続きと個人再生手続の場合は、これらの手続をしても、養育費を減額する効果はありません。
しかし、任意整理は交渉ですので、交渉次第では減額に応じてもらえる可能性は0ではありません。
慰謝料を債務整理で減額する方法
自己破産で慰謝料を免責する
債務整理のうち、自己破産の場合、慰謝料も免責債権となりますので、免責されます。
ただし、慰謝料でも、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」(破産法253条1項2号)に該当する場合には免責されません。この「悪意」については、単なる悪意ではなく、積極的な「害意」が必要と言うのが通説です。
ですので、誰かを傷つけようと思ってした不法行為を基礎とする慰謝料の場合には、免責されない可能性が出てきます。
慰謝料の減額で個人再生を用いる場合は?
任意整理のうち、個人再生手続を利用した場合には、慰謝料も減額の対象となります。どの程度減るかは、借入の総額や持っている資産の金額により決まります。
例えば、慰謝料以外に借金も含めて総額200万円で、資産が50万円しかない、というような場合は、返済する総額が100万円になります。
これを3年程度で返済することになります。
慰謝料を任意整理で減らすことはできるのか
任意整理は、債権者との交渉です。
ですので、慰謝料を任意整理するということは、再度交渉するということになります。
どのように慰謝料が決まったかにもよりますが、訴訟で和解交渉が決裂して判決になってしまったというような場合には、再度の交渉しても減額は難しいかもしれません。
一方、話し合って慰謝料額が決まったが、話し合ったときから給与が減少した等の事情がある場合には、再度話し合って、毎月の支払額を減少させることは可能性としてなくはないと思います。
養育費を減額する方法
養育費減額調停で支払額を見直す
将来の養育費について減額をする場合は、養育費の減額請求調停を申し立てるのがよいでしょう。
調停ですので、家庭裁判所を利用します。
相手方の住居地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすると、調停内で話し合いをして、今後の養育費の金額を決定します。場合によっては、未払いの養育費の支払いを免除してもらえたり、減額してもらえることもあります。ただ、これは話し合いの中で相手方が応じてくれた場合に限ります。
話し合いがつかない場合は、審判という手続に移行し、裁判官が、双方の収入、扶養する人、子供の年齢を基本事項として、その他の事情も多少考慮しながら、養育費の金額を決定します。
裁判所を通さない話し合いも弁護士への依頼がおすすめ
先に述べた通り、調停も基本は話し合いですので、調停をせずにまずはお互い話し合うという方法もあります。
その場合でも、交渉に自信がなかったり、双方が感情的になるのを防ぐ意味で、弁護士に依頼するメリットは大きいです。
どうしても慰謝料が払えない場合について
慰謝料を滞納し続けた場合のリスクと差押禁止財産
慰謝料を滞納した場合には、慰謝料請求訴訟を提起されるリスクが高くなります。
また、すでに判決や調停調書など執行できる文書がある場合には給料差押え、預貯金差押え等の強制執行がされるリスクがあります。
なお、強制執行されても、給与については基本的にその4分の1までしか差押えられず、4分の3が差押え禁止財産となっています。なお、月額33万円を超える部分は差押えされます。
慰謝料を払うためでも借金を増やすべきではない
慰謝料を支払うために借入をする。
十分な返済原資がある人にとっては、借入をして一括で慰謝料を支払い、借入先に分割で支払うほうが精神的な負担が少ないといえます。
しかし、資金不足で慰謝料が支払えないのに、借入をするということは止めたほうがいいでしょう。
借入をした場合には、利子がつきますので、本来支払う慰謝料額以上の支払をすることになります。
返済が苦しいのに、さらに返済額を増やす、ということは得策とはいえません。
ですので、借金は増やさないことをお勧めします。
伊奈先生からのメッセージ
慰謝料や養育費については、相手が身近な人だったり、感情的な面が表にたったりするので、支払ができない場合に適切な対応をとることは難しいです。
しかし、払えないからと放置しておいていいことは一つもありません。
困ったら弁護士に是非相談してみてください。