筆者:東大法科大学院 2年生
はじめに
筆者は現在、東京大学法科大学院の既修2年生であり、法曹を志して司法試験合格に向けた勉強に取り組んでいる。この春から、東京大学法科大学院の事務所訪問サークルに加入した。まだ活動には参加していないものの、志を同じくする仲間とともに法律事務所を訪問する機会を得られることに、大きな価値を感じている。
法曹への第一歩としての「事務所訪問」
事務所訪問は、単なる就職活動の一環として捉えられがちである。しかし、筆者はそれ以上の意味があると考える。事務所を訪問し、実際に弁護士と近い距離で話をすることは、法曹としての自己像を明確化する契機となり、机上にとどまっていた法律学習を社会に接続させる貴重な経験となり得る。
東京大学法科大学院では、高度な法律理論を習得できる反面、実務との接続が常に課題となっている。そのギャップを埋める手段の一つが、法律事務所を訪ね、実際に働く弁護士の声に耳を傾けるという体験である。たとえば、同じ「労働事件」であっても、企業法務系事務所と労働者側を支援する事務所では、取り組み方や法的スタンスが大きく異なる。このような「現場でしか得られない知見」は、まさに事務所訪問を通じてしか体得できないものである。
筆者自身も、これから訪問を重ねる中で、単なる知識の蓄積にとどまらず、「どのような法曹として社会に貢献したいのか」という根源的な問いに真摯に向き合っていきたいと考えている。
サークルとして取り組む意義:学びと連帯の場
事務所訪問を個人ではなく、サークルという共同体で行う意義は極めて大きい。
第一に、情報の共有が可能となる。法律事務所との連絡、訪問先の特色、当日のやりとりなどは、個人で準備するには負担が大きく、また情報の偏りも生じやすい。複数のメンバーが協力し合うことで、訪問経験が蓄積・共有され、より多様で網羅的な理解が得られるだろう。
第二に、同じ目標を持つ仲間とともに実務の現場を体感することで、「自分がなぜ法曹を志すのか」を再確認でき、日々の学習に対する意義を見出しやすくなる。すなわち、モチベーションの維持向上に繋がるものである。
第三に、実践的な学びが得られる点が挙げられる。訪問時の質問事項の作成や、事務所ごとの特色を踏まえたコミュニケーションなど、実際の対話力が問われる。これは今後のインターンや面接にも通じる実践的スキルであり、法曹としての基礎を育む貴重な経験ともなろう。
なぜ今、連携が必要なのか:法曹業界の変化と若手育成
現役ロースクール生としては、就活の早期化にも見られるように、近年法律業界において採用や人材育成の在り方が大きく変化しつつあることを実感している。かつてのように、「司法試験合格後に事務所に所属して一から学ぶ」というモデルから、ロースクール段階での早期接点と人材育成を重視する方向へと移行している。
こうした変化に対応するには、ロースクール段階での実務との接点を、制度的かつ継続的に支える枠組みが必要である。事務所訪問サークルのような活動は、その架け橋として大きな役割を果たし得る。
「事務所・学生間の接点を強化することで、より多くの相互理解と成長が生まれる」という理念のもと、学生自身も受け身ではなく、積極的に行動する姿勢が求められる。法曹界の一員となる準備を、このような活動を通じて着実に進めていくべきである。