司法試験の勉強法まとめ:効果的な勉強法とスケジュール管理術

筆者:東大法科大学院 2年生

目次

第1 試験を意識した効率的学習

 私が司法試験対策において常に意識しているのは、いかに効率的に学習を進めるかという点である。法律学は極めて奥深く、知的好奇心を刺激する魅力的な学問である。しかしながら、その学問としての面白さと、司法試験に合格するための実践的な対策とは、必ずしも一致するものではないと考えている。

 すなわち、効率的な学習のためには、「何をやるべきか」を意識する以上に、「何をやらないべきか」を的確に見極めることが重要であると考えている。法律という学問は、追究しようと思えば際限なく深掘りできる世界であり、そのこと自体が法律学の魅力でもある。
 しかし同時に、その無限の広がりが、試験対策においてはかえって学習の方向性を見失わせる要因にもなり得る。だからこそ、学問としての探究心と、合格のための現実的な取捨選択とを、冷静に切り分ける視点が求められるのである。

 以下にはこの観点に絞って、効率的な勉強方法について、私の思うことを述べる。

第2 基本書、判例、論証集、等のツールの使い方

1. 基本書の使い方 「深く、しかし偏らず」

 基本書は、理解の土台を築くうえで不可欠な教材である。
 しかし最初から最後まで通読しようとするのは、司法試験対策としては極めて非効率である。
 合格に求められる水準を常に意識しながら、「制度趣旨」「判例との関係」「問題となる論点」といった実践的に重要なポイントに着目して読み進めることが効果的である。

 そして、ある程度の基礎理解がある段階では、問題演習を主軸に据え、必要に応じて基本書を辞書的に参照するという使い方が、最も実践的かつ効率的である。通読自体を否定するわけではないが、限られた時間で最大の成果を上げるという観点からは、戦略的に避けるべき学習法であると考える。

2. 判例の読み方 

 判例を効果的に活用するためには、単に結論を把握するだけでなく、その結論に至る理由付けを深く理解することが不可欠である。あわせて、判例の事実関係の中でも、裁判所の判断に決定的な影響を与えた重要な事実を的確に把握することが求められる。これらを押さえることによって、判例の趣旨を正確に理解するとともに、その規範がどのような場面に適用されるかという「射程」についての適切な把握が可能となる。

 こうした深い判例理解を身につけることにより、重要判例を素材とした応用的な設問にも、柔軟かつ的確に対応できるようになる。一方で、これらの視点に資することのない知識や情報を判例から無批判に学習することは、試験対策としては非効率であると言わざるを得ない。したがって、何を学ぶべきかを見極める目を持つことが、判例学習において極めて重要である。

3. 過去問演習の活用 

 過去問は、司法試験対策における中核的な教材である。繰り返し出題される論点の把握や、問題文の特徴を理解するためには、過去問演習を通じて本試験の「型」を身体に染み込ませることが極めて重要である。このような作業を繰り返せば、司法試験のレベル感をつかむことができ、普段のインプットにおいても適確な取捨選択が可能となろう。

 さらに、添削を受けてフィードバックを得ることで、自身の弱点を客観的に把握し、修正する契機となる。また友人らと自主ゼミを組み、答案構成や法的思考について議論する時間を設けることは、自覚せぬうちに有効なアウトプットの機会となり、理解の深化と表現力の向上につながるため、非常に有益である。

4. 論証集の活用 

 論証集を活用することはほぼすべての受験生に共通する学習手法である。しかし論証集をただ漠然と用いるのではなく、その目的と性質を理解したうえで、自身に最も適したものを選ぶことが重要である。

(1)論証集選び 

 そもそも論証集の用途とは、一元化された情報をスムーズにインプットすることにある。そのため、論証集選びにおいては、自分の思考スタイルや理解方法に適合した構成や記述形式を備えているかが重要な判断基準となる。

 たとえば、論証の展開において、理由付けから結論へと導かれるものと、結論から理由付けに展開されるものとでは、思考の流れが異なる。どちらが優れているというよりも、自分の頭に入りやすい構成になっているかを見極めることが大切である。

 また論証の具体性の程度にも差がある。判例の事実関係や文言を詳細に記載しているものもあれば、ある程度抽象化された形でまとめられているものもある。自身の学習段階や復習の方法に応じて、どちらが適しているかを判断し、適切な論証集を選択するべきである。

 論証集は単なる暗記の対象ではなく、理解を補助し、整理するための「情報のハブ」として活用するべきものである。

(2)論点学習について

 論証集の活用と並行して、論点そのものの学習についても私の考えを述べる。論点学習において重要なことは、問題意識の把握である。論点とは、単なる暗記事項ではなく、原則論からの帰結たる「問題意識」に他ならない。そうするとなぜ論点が論点足り得るかを理解するには、原則論の理解が不可欠であろう。原則を軽視してはならない。また、その上で対立学説等を把握して論点理解を補完するのである。問題意識の理解が薄いと、試験において最も避けるべき「論点外し」に陥ってしまう可能性が高い。

 また、判例の文言や個別の論証を過度に具体的に暗記することに終始するのではなく、適度に抽象的な理解を心がけることが学習の効率を高めると考える。まずは抽象化された理解を通じて論理構造を把握し、そのうえで必要に応じて重要な文言や要素を記憶していくという、理解を先行させ、暗記を後行させるスタイルが有効である。
 このようにすれば、論証の中で本当に重要な要素とそうでない要素との「濃淡」を自然と識別できるようになり、結果として学習の密度が高まる。

第3 おわりに

 ここまで述べてきたことは、いずれも私自身が日々の学習の中で感じ、試行錯誤の末に得られたごく個人的な見解にすぎない。必ずしも体系的でもなければ、万人にとって有用な示唆になっているとも限らないだろう。その意味で、本稿の内容がやや雑多で、些末に映る部分もあったかもしれないが、読んでいただいた方には心より感謝申し上げる。

 ただ、司法試験という厳しい挑戦に立ち向かう中で、「何を学び、何を切り捨てるか」「どう理解し、どう記憶するか」といった日々の判断の積み重ねこそが、合格への道を形作るのだと私は信じている。
 拙いながらも、こうした私の考えや工夫の一端が、これから学習を進める方のヒントとなればと思う次第である。

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