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新 破産者マップが再び話題に!その問題点をNHKドラマ「デジタル・タトゥー」原案者・河瀬季弁護士が解説!

破産者マップという言葉をご存知だろうか。官報に記載された自己破産者情報をGoogleMapと紐付け、サイトで検索するだけで破産者を特定できるようにしたサイト、およびその閉鎖までの一連の事件を指す。今回はネット上の法律問題に詳しい、NHKドラマ「デジタル・タトゥー」の原案を担当された河瀬季弁護士にそもそも自己破産とは何であるか、そしてこの事件が示唆するネット上でのプライバシー情報問題をご解説いただいた。

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河瀬 季弁護士の画像

河瀬 季(かわせ とき) 

-モノリス法律事務所代表弁護士

-第二東京弁護士会

 

元ITエンジニア・ライター。IT企業経営の経験あり。

東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約60社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。

企業や個人をクライアントとして、インターネット上の風評被害対策も数多く手がけており、書籍「デジタル・タトゥー」の執筆、NHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」の原案も担当している。

 

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  • 「破産者マップ」事件概要

官報に掲載された破産者らの氏名や住所などの個人情報を、インターネット上の地図上にまとめたという「破産者マップ」が公開された。名誉やプライバシーを侵害するという批判が相次ぎ、政府の個人情報保護委員会がサイトを閉鎖するよう運営者に行政指導。19日にサイトは閉鎖された。

(朝日新聞デジタルより引用)

  • 新 破産者マップが現れる

かつて話題になった破産者マップ事件から3年、2022年6月に新 破産者マップと題したサイトが現れる。こちらも多くの批判が相次いでいるがサイト管理者は激しく反発している。

そもそも自己破産とは何か、ご解説いただけますと幸いです。

そもそも自己破産とは?

「自己破産」とは、裁判所に「破産申立書」を提出して、財産、収入が不足し、借金返済の見込みがないことなどを認めてもらい、自分が保有する財産を清算し、養育費や税金などの非免責債権を除く、全ての借金を免除してもらう手続きをいいます。

どんなときに自己破産するのか?

借金総額(住宅ローンは除く)が年収を超えてしまったときや、生活保護を受給しているとき、病気や怪我で仕事ができなくなってしまったとき、借金の返済が3ヶ月以上滞ってしまったとき、裁判所から差し押さえ通知が届いたとき、5社以上の金融機関から借金をしているとき、他の債務整理では解決できないとき等

だれかの代わりに自己破産に追い込まれることも?

保証人や連帯保証人となることで、第三者の債務を肩代わりし、返済できずに自己破産へ追いやられる、というパターンはあるかと思います。

なぜ官報で破産者情報は公開されているんでしょうか。

破産関係者への告知

破産手続きにおいては、多数の利害関係人の関与が想定されることから、破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を円滑かつ経済的に実施することを目的として、破産者情報を官報に掲載しています。

 

破産者マップの問題点はどんなところにあったか?

公開されていない個人情報の収集が目的だった?

破産者マップは途中から掲載削除の申請をすることが可能になりました。その申請には本人特定情報の他に”破産に至った事情” “破産後の生活状況”を必要としていたようです。このふたつの情報収集が目的だったのでは?という意見もありますが。


プライバシー権侵害は、公開された情報に公共性があり、それが公的な事項である場合には、プライバシー権よりも公益性が優先され、プライバシー権侵害にならない場合があります。仮に本件が裁判で争われた場合、裁判所は、「破産者マップ上の各個人の情報が削除されるべきか否かは、破産の事実を公表されない法的利益と公益性の比較考量によって決まるべき問題であり、破産に至った事情や破産後の生活状況などの事実を踏まえないと判断できない」という判断を行う可能性があります。そしてそうである以上、裁判に至る前段階で破産者マップの管理者が自主的に情報を削除するか否かを判断するために、”破産に至った事情” “破産後の生活状況”を含めて削除申請を受ける必要がある、という理屈も、一応通ります。

しかし、破産者マップは、官報記載の破産者情報をわざわざ地図というわかりやすい形に可視化して、インターネット上で破産者と利害関係のない人間まで含めた誰でもがその情報にアクセスしやすい状況を作り出したのであり、公共性・公益性のあるものとは言えません。したがって、そもそも本件については、破産の事実を公表されない法的利益との比較考量をするまでもない事案であり、「破産に至った事情」や「破産後の情報」というのは不要な情報であったともいえます。したがって、何か別の目的(個人情報の収集、単なる興味本位等)で、これらの情報を得ようとしていた可能性も、十分にあり得るといえるでしょう。

自己破産によって過剰な取り立てから自己を守る権利行使の妨げになる?

自己破産の事実は、官報以外では、自己破産者名簿、本籍地の市区町村が発行する身分証明書といった公にはならないところに記載されるだけです。そして、官報は通常一般人の目に触れるものではなく、特定の層の人間だけが目にするものです。つまり、自己破産の事実が基本的に周囲に知られることはないわけです。それが、破産者マップによって崩れるのだとしたら、過剰な取り立てに苦しむ人々が自己破産へ踏み切ることを躊躇させることになるかと思います。

”お金がない人”が検索可能=高利貸しの格好のターゲットになりうる?

破産者は、一定期間、正規の金融機関や消費者金融から借り入れを行うことができなくなります。そのため、闇金業者が破産者を狙っての高利貸付を行うケースは多いです。ただ、そのような業者は元々官報の破産者情報をチェックしていると思われます。

本件に限らず、インターネット上の情報掲載は、「その情報をカジュアルに手に入れることができるようになってしまう」という意味で、問題になるケースが多いものといえます。

例えば、逮捕に関する情報。一般個人が暴行や窃盗などの疑いで逮捕されたという事実は、例えば地方新聞に小さく掲載されるケースも少なくありません。それはインターネットが登場する前から変わらないことであり、一部の調査会社などは、そうした新聞記事をデータベース化し、依頼に基づいて当該個人の過去の逮捕記事をデータベース内から検索する等していました。

しかし、そうした情報が匿名掲示板などに転載され、インターネット上に残り続けてしまうと、個人の氏名を検索するだけで、簡単にその情報に辿り着くことができてしまうのです。この意味で、インターネットや匿名掲示板の登場は、「これまでであれば公開されていなかった情報が、公開されるようになってしまった」という訳ではないのですが、しかし「これまでであれば取得が困難だった情報が、極めてカジュアルに取得できるようになってしまった」という変化をもたらしたと言えます。

破産者マップを多くの法律家が問題視したのも、同じ構造でしょう。本当の「悪人」、例えば闇金業者は、破産者マップがなくても、元々官報を用いて高利貸付などを行っていたと思われます。ただ、だからといって、「元々官報で公開されていた情報なのだから、インターネット上に公開されても問題は何もない」とは言えないはずなのです。

プライバシー侵害にあたる?

破産の事実は通常他人に知られたくないものであり、保護されるべきプライバシーであると考えられます。

ただ、プライバシー権侵害というのは、「公開されていない情報」について成立するのであり、今回の場合はそこが問題になるかと思います。破産者マップのサイト運営者は、官報で公表されていた情報をそのまま使用したことから、プライバシー権侵害には当たらないと考えていたようです。しかし、この点に関して、登記簿や電話帳に住所が記載されている人間が、インターネット上に個人情報を書き込まれた場合のプライバシー権侵害について、以下のような裁判例があります。

「登記簿や電話帳への自宅住所の記載は、いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので、同目的に照らし限定的に利用され、同目的と関係のない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ、公開するものもそのように期待して、公開に係る自宅情報の伝播を上記範囲に制限しているというべきであるから、上記各事実を理由として、原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない」(東京地判平成23年8月29日:「最新プロバイダ責任制限法判例集」(LABO)174頁)

そして、官報の破産者情報というのは、先にも述べたように、破産手続きの関係者を対象として予定しているのであり、官報掲載によって破産の事実を世間一般に知らしめることを目的とするものではありません。したがって、破産者マップによって可視化された破産者情報は、官報に公表された情報を元にしてはいるものの、やはりプライバシー権侵害になると考えられます。

 

破産者マップ事件 まとめ

自己破産情報は、実際には元から官報に記載されているため、官報を取り寄せさえすれば誰が破産したかわかります。前科情報も国会図書館に行きさえすれば、何十年も前の新聞だって保存されているため見つけられます。つまり手間暇さえ惜しまなければ一度公表された情報は知ることはできるわけです。

しかし例えば、新しい従業員を採用するか検討する際に、わざわざその人のことを官報で調べたり、国会図書館に行って過去の地方新聞を何年分も読んで前科を調べたりといった行動を、普通の人は採らないはずです。破産者マップは、そうした情報を極めてカジュアルに、誰もが手に入れられるようにしてしまったわけです。

たしかに自己破産情報は元から世の中に公開されている情報ではあります。ですが情報を得ようとするにあたって、かなりコストを覚悟しないと行けない場合と、指先一つで手に入れられる状況は明らかに違います。ですから今回の問題の本質は”センシティブな情報を公開したこと”自体より、”センシティブな情報に辿り着くことが容易すぎる状況を生んでしまったこと”にあると思います。

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