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地方で働く弁護士に憧れ弁護士過疎地域へ。苦難のスタートから事務所を軌道に乗せ地域のインフラへ/西村幸太郎弁護士(豊前総合法律事務所)

地方で働く弁護士に憧れて弁護士を目指し、弁護士過疎地域である福岡県豊前市に事務所を構えたという西村先生。初月売上8万円から順調に事務所を軌道に乗せ、約8年にわたり弁護士過疎地域で活動されてきたお話をうかがいました。

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弁護士を目指した理由とこれまでについて

これまでの経歴について教えてください

出身は長崎市で、熊本大学法学部と広島大学法科大学院を卒業しました。

2013年に弁護士になり、福岡市にある「弁護士法人あさかぜ基金法律事務所」に入所しました。そこで約3年間経験を積み、「豊前ひまわり基金法律事務所」の初代所長に就任し、3年間の任期を終えて2019年10月に定着という形で「豊前総合法律事務所」を開設して現在にいたります。

「ひまわり基金法律事務所」というのはどういった事務所なのでしょうか?

弁護士が少ない又は一人もいない「弁護士過疎地域」と呼ばれる地域で、いつでも、誰でも司法サービスを受けられるように、日本弁護士連合会等の支援を受けて開設・運営される公的な法律事務所です。

私が赴任した当時、豊前市とその周囲の築上町、上毛町、吉富町を合わせても、私以外の弁護士は1名のみでした。その1名の弁護士も、私が赴任する数ヶ月前に豊前市に来られた方で、刑事弁護を中心に活動されていたので、交通事故、離婚、相続などを中心に扱う弁護士はゼロでした。

弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。

父の影響で幼い頃から映画が好きで、中学2年のときに観た「評決のとき」という映画がきっかけでした。黒人差別をテーマに、白人弁護士が奮闘する刑事裁判を描いたものですが、その最終弁論に非常に感銘を受けたんです。絶体絶命の逆境のなかで、「言葉」で人を救う。その力を見せつけられ、弁護士に憧れるようになりました。

昔からヒーローに憧れていたのですが、ウルトラマンや仮面ライダーといった非現実的なヒーローではなく、弁護士という実在する仕事だったからこそ「なりたい」と思えたのでしょうね。

その後いろんな本などを読む中で、「都会で働く弁護士はスペシャリスト、地方で働く弁護士はゼネラリスト」という言葉に出会いました。そして地方が大好きな私は、「市民の味方としてなんでもできる地方の弁護士になろう」と決意し、その後も弁護士になりたいという気持ちは変わりませんでした。

今思うと、都会にもゼネラリストはいますし、地方にもスペシャリストはいます。ただ弁護士過疎地域で働く弁護士は、まさにゼネラリストです。ありとあらゆる相談が寄せられますので、「私はスペシャリストなので他の事務所に行ってください」というわけにはいきません。

地方の中でも、さらに弁護士が少ない弁護士過疎地域を選ばれたのは、どういう想いだったのでしょうか?

大学の卒業論文を書くときに、「弁護士がいない・少ない地域がたくさんある。弁護士がいないと、こんなにたくさんの弊害がある」という問題を知ったんです。

元々弁護士になったら地方で働くつもりだったので、それなら弁護士が誰も行かないような地域にあえて事務所を構え、地域のインフラになろうと思ったんです。

そして司法試験合格後に、都市部の法律事務所で養成を受けて弁護士過疎地域へ赴任する道があると知り、養成を行っている「弁護士法人あさかぜ基金法律事務所」に入所しました。

全国にある弁護士過疎地域の中で、豊前を選んだ理由を教えてください。

「弁護士法人あさかぜ基金法律事務所」からは基本的に九州の弁護士過疎地域へ赴任するのですが、いくつか候補地がある中で、豊前は先代からの引き継ぎではなく新たに事務所を開設する場所でした。そして私は、せっかくやるなら一から自由に事務所を作りたいと思ったので、豊前を選びました。

弁護士になって約3年で所長に就任するというのは不安ではなかったですか?

もちろん不安でした。ただ近い将来赴任することを見越して、弁護士業務だけでなく経営のこともしっかり考えて過ごしていました。そして私は前向きに考えるタイプでもあるので、「なんとかなるだろう」とは思っていましたね。

赴任してからも、定期的に日弁連側の弁護士との会議があったり、わからないことがあれば電話やメールで質問できるというバックアップ体制があったので、そこも安心材料でした。

実際に赴任してみて、いかがでしたか?

今だから笑い話にできますが、初月の売上はなんと8万円でした。事務所の賃料やスタッフの給料が必要だったので、大赤字のスタートでしたね。ただ弁護士がほぼゼロという地域に突然弁護士が来たわけですから、そもそも存在を認識されていませんし、「困りごとがあったら弁護士に相談する」ということ自体が地域に浸透していないので当然ですね。ちなみにひまわり基金法律事務所では所得保障制度があるので、仮に売上が少なくても生活に困ることはないので安心してください。

その状況から、どのように事務所を軌道に乗せていかれたのでしょうか?

事務所でじっと待つのではなく、役場や商工会議所など色んな場所へ顔を出して、講演依頼や勉強会の講師なども積極的に引き受けることで、私の存在を知ってもらい、どういう相談に対応できるか知ってもらうように行動しました。

そうするうちに少しずつご依頼が増えていって、ご依頼いただいた案件に全力で応えるうちに、ありがたいことに口コミや紹介でご依頼がさらに増えていきました。

3年間の任期を終えて定着されたということですが、定着というのはどういうことでしょうか?

ひまわり基金法律事務所の所長は任期制です。任期を終えた所長には、任期を延長する、次の所長に交代する、ひまわり基金法律事務所を自分の事務所としてそのまま定着するという選択肢があるんです。

全国的には次の所長に交代する事務所が多いですが、私は定着するつもりで赴任しましたし、事務所のHPも作ったり、多くの方や自治体ともつながりができたので、今後の弁護士人生を考えると定着したほうがよいと思ったんです。今では事務所の近くに家も建てましたし、子どもも地域の学校に通っていますから、今後も豊前市内で弁護士を続けるつもりです。

元々地方で働きたいという想いで弁護士になられて実際何年も働いてみて、今どういったことを感じていますか?

やりたいと思っていたことをやれていると感じています。もちろん大変なこともたくさんありますが、困っている方の力になって解決していくことは大きな充実感があります。また弁護士が少ないので、すごく頼っていただけて、自分にしかできないことができているという実感があります。自分の裁量でいろんなことができますし、ここに来てよかったと思っています。

弁護士過疎地域に弁護士がいる意義は、どういったところでしょうか?

まずは、近くで相談できるというところです。なにか困りごとがあったときに、遠くの街まで相談に行く必要があるのか、近所で相談できるかによって、相談するかどうかのハードルは全く違います。近くに弁護士がいて相談できることで、救える命や人生は間違いなくあります。裏を返せば、近くで弁護士に相談できないことで救えない命や人生があるということです。

また、弁護士が地域にいると悪事を働きにくくなると思います。私が赴任した頃は、ヤミ金関連の相談が非常に多かったんです。それでかなり激しく闘った結果、1年ほど経つとパタッと相談がなくなったんですね。おそらく弁護士が来たことで、悪いことができなくなったのでしょう。そういった意味でも、地域に貢献できていると感じます。

現在の仕事について

注力している分野を教えてください。

この地域の弁護士は赴任当時から全く増えていませんので、今でも個人や会社の様々なお困りごとが持ち込まれます。基本的にはそれらに幅広く対応していますが、交通事故、終活、企業法務に特に力を入れています。

交通事故は、車社会なので件数が多いというのが大きな理由です。終活と企業法務については、トラブルの予防という意味が大きいです。トラブルが起きてから弁護士に依頼すると、どうしても時間・労力・費用がかかってしまいます。ですから、トラブル自体を減らすことで地域に貢献できればと思います。企業法務については、企業が健全に成長することで、そこで働く方や取引先にもよい影響を与えられますよね。私が直接サポートできる範囲は限られていますが、会社をサポートすることで間接的に多くの方をサポートできると感じています。

弁護士として、どういったことを大切にされていますか?

原点を忘れないということです。「言葉」というのは、人類最大の発明だと思っています。その「言葉」を使って人の命や人生を救える仕事だと自覚し、決しておごらず、一方で誇りを持って仕事をしたいと思っています。

先生が取り組んでいるIT化について教えてください。

スケジュール管理はGoogleカレンダーを使っていて、案件管理などはCloudBalanceというクラウドサービスを使っています。事務局とのやりとりはChatworkを使って、依頼者とのやりとりは大体LINEですね。ほかにもクラウド会計ソフトなども使っていますし、ITツールを積極的に使って業務を効率化しています。

今後の目標などを教えてください。

今こうして仕事ができているのは、地域の皆さんが私を受け入れてくださったからです。そして事務所のスタッフや理解ある家族のおかげでもあります。今後はその恩をもっともっと地域に還元して、貢献していきたいですね。その一つとして、雇用の創出も地域貢献だと思い、当初は1名だったスタッフを4名まで増やしました。

近年、弁護士の数自体は増えましたが、まだまだ弁護士過疎地域はあります。私自身が成功したモデルケースになれば、弁護士過疎地域で働きたいと思う弁護士も増えるはずです。私一人でカバーできる地域は限られますが、そうやってあとに続く弁護士が増えてくれれば、日本全国いろんな場所で救われる命や人生が増えていくと思って活動しています。

弁護士への相談を考えている方へ一言お願いします。

よく「弁護士は敷居が高い」と言われますから、弁護士に相談しづらいという方も少なくないと思います。そうであれば、弁護士じゃなくてもよいので、とにかく誰かに相談することが第一歩だと思います。私としても、相談しやすい場所になれるよう今後も努力を続けていきたいと思っています。

なにか不安や疑問がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士情報

弁護士名:西村 幸太郎
所属弁護士会:福岡県弁護士会
事務所名:豊前総合法律事務所
事務所HP:https://www.buzenlawoffice.jp/
事務所住所:福岡県豊前市青豊19-14 スペースⅠ

 

経歴:
長崎県長崎市出身
2008年3月 熊本大学法学部卒業
2011年3月 広島大学法科大学院修了
2012年9月 司法試験合格
2013年12月 弁護士登録
2013年12月 弁護士法人あさかぜ基金法律事務所勤務
2016年10月 豊前ひまわり基金法律事務所所長
2019年10月 定着 豊前総合法律事務所 所長

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